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ビジネスにおいて商品やサービスを注文する際、発注書は取引内容を明確にし、後々のトラブルを防ぐために欠かせない書類です。
しかし「発注書と注文書は同じもの?」「いつ発行すればいいの?」「何を書けばいいかわからない」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、発注書の基本的な意味から法的な位置づけ、実務での正しい書き方、さらには電子化時代の対応まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
2008年に弁護士登録し、大阪市内の法律事務所に勤務したのち、2021年に独立開業しました。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
【目次】
発注書とは

発注書とは、業務を注文する側(発注者)が作成し、「この内容で商品やサービスを注文します」という意思を正式に示す書類です。
物理的な商品の購入だけでなく、IT開発の委託、建築工事の依頼、デザイン制作の発注など、様々なサービスの取引でも使用されます。
法的には、発注書は「申込みの意思表示」としての性質を持ちます。
つまり、発注書を発行した時点では、まだ契約は成立していません。
受注側が承諾の意思を示す「発注請書(注文請書)」を返送することで、初めて双方の合意が形成され、契約が成立する仕組みです。
民法の原則としては、受注者側の承諾によって契約成立となります(民法522条)。ただ、取引上の慣習などで承諾の通知を必要としない場合には申込のみで契約成立と評価されるケースもあります(同法527条)。
また、承諾の期間を定めてした申込は撤回できませんし、期間を定めていなくても相当期間が経過するまでは撤回できません(法523条、525条)
申込(発注書の発行)は、契約成立に向けた重要な行為ですので、内容をしっかりと確認して発行するようにしてください。
また、発注書は「証憑書類(しょうひょうしょるい)」と呼ばれる、取引内容や取引自体の証明になる重要な書類に該当します。
税法上も一定期間の保存が義務付けられており、税務調査や将来的な紛争時の証拠として機能します。
参考:公正取引委員会 下請法 知っておきたい豆情報 その1:発注書面の交付義務について
発注書が果たす3つの役割
発注書が取引において果たす役割は、主に3つあります。
- 取引内容の証拠としての役割
- 社内管理の効率化
- トラブルの予防
それぞれ詳しく確認していきましょう。
1. 発注内容の明確化
口頭での注文は、言った・言わないのトラブルや、聞き間違い、認識のずれが生じやすくなります。
発注書に品名、数量、金額、納期などを書面で明示することで、双方が同じ内容を確認でき、認識の齟齬を防ぐことができます。
特にシステム開発や建築工事など、仕様が複雑な案件では、書面による確認が不可欠です。
2. 社内管理の効率化
発注書に発注番号を付与することで、関連する見積書、納品書、請求書との紐付けが容易になります。
複数のプロジェクトや取引先を抱える企業では、この管理機能が業務効率化に大きく貢献します。
3. 法的証拠としての役割
発注書は、契約トラブルが生じた際の重要な証拠の一つになります。
契約をめぐって何らかの裁判になった際には、契約書は当然ですが、それ以外の発注書や請書、納品書、請求書などの書類が重要な意味を持つことが多々あります。
契約書では明確に定められていなかったり、わかりにくい表現が用いられたりしている場合に、発注書などの書類から「契約内容こう解釈すべきだ」と、裁判所の判断に影響することが起こりえます。
発注書は税法上の「証憑書類」として、取引の存在と内容を証明する重要な証拠となります。
税務調査時や、将来的に紛争が生じた際に、取引内容を客観的に示すことができます。
特に取適法(中小受託取引適正化法)が適用される取引では、発注書の交付が法的義務となっており、違反すると罰則の対象となります。
※下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、2026年1月1日から取適法(中小受託取引適正化法)に改正・名称変更されました。
受注者が個人事業主などのいわゆるフリーランスの方である場合にも同様に発注内容を明記した書面を交付する義務があります。
これは、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)によるものです。2024年11月から施行されています。
発注の際には、取適法(従来の下請法)の適用の有無のみならず、フリーランス保護法の適用があるかも検討するようにしてください。
発注書の発行が必要なケースとは

発注書の発行が特に必要となるのは以下のようなケースです。
- 取適法が適用される取引(資本金基準に加え、従業員数基準などにより適用対象が判断されます)
- 高額な取引や長期にわたる契約
- 仕様が複雑なサービス委託(システム開発、建築、製造など)
- 複数回にわたる継続的な取引
- 税務上の証憑として記録を残す必要がある取引
一方で、少額の定型的な取引では発行が不要な場合もあります。
また、基本契約書で詳細な条件が定められており、個別発注の都度書面化する必要性が低い場合も、発注書を省略できることがあります。
ただし法的義務がない場合でも、取引の透明性確保とトラブル予防の観点から、発注書を発行することが実務上の推奨事項です。
「ご発注書」は正しい敬語?適切な表現とは
ビジネスコミュニケーションにおいて、「ご発注書」という表現は正しいのでしょうか。
「ご発注書」は文法的には誤りではありませんが、やや不自然な響きがあります。
発注書は書類の名称であり、通常は「発注書」とそのまま呼ぶのが一般的です。
口頭で発注を依頼する際は、「発注をお願いします」という表現が適切。
これは丁寧語の「お願いします」を組み合わせた、相手への依頼を示す丁寧な表現として、取引先や目上の方に使っても失礼にはあたりません。
書類のタイトル欄には、シンプルに「発注書」または「注文書」と記載します。
「ご発注書」とする必要はないということを知っておきましょう。
発注書・注文書・注文依頼書の違いを整理
発注書を作成する際、「発注書だけでいいの?それとも契約書も必要?」「発注請書って何?」「注文依頼書とどう違うの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、発注書と関連する書類の違いを明確に整理します。
発注書と注文書の違い(発行者視点)
結論から言うと、発注書と注文書は基本的に同じものを指します。
どちらも、商品やサービスを購入する側(買い手)が発行する書類で、「この内容で注文します」という申込みの意思を示すものです。
呼び方の違いは、主に業界慣習や企業文化によるものです。一般的な使い分けは以下の通りです。
| 用語 | よく使われる場面 |
|---|---|
| 発注書 | BtoB取引、製造業、建設業、IT業界など企業間取引 |
| 注文書 | BtoC取引、小売業、個人向けサービスなど |
たとえば、協力会社にシステム開発を委託する場合は「発注書」、オフィス用品を購入する場合は「注文書」と呼ぶことが多いです。
ただし、これはあくまで慣習であり、法的な違いはありません。
注文依頼書とは
注文依頼書とは、正式な発注の前段階で使われることが多い書類です。
「この内容で見積もりをお願いします」「この条件で発注できるか検討してください」といった、発注の意思表示よりもやや柔らかいニュアンスで使用されます。
実務上、注文依頼書は以下のような場面で活用されます。
- 予算承認前の仮発注
- 相手方の対応可否を確認するための打診
- 社内稟議と並行して進める必要がある場合
ただし、多くの企業では注文依頼書と発注書を明確に区別せず、「発注書」として統一的に扱っているケースも多く見られます。
発注請書とは
発注請書(注文請書)とは、発注書とは逆に、注文を受ける側(受注者・売り手)が発行する書類です。
「ご注文の内容を承諾します」という意思を示すもので、これが発行されることで契約が成立します。
標準的な取引の流れは以下の通りです。
- 発注者が見積依頼を行う
- 受注者が見積書を提出
- 発注者が内容を確認し、発注書を発行(申込み)
- 受注者が発注請書を返送(承諾)→ 契約成立
- 受注者が商品・サービスを納品
- 受注者が請求書を発行
- 発注者が代金を支払い
注意すべきは、商取引では口頭の合意でも契約は成立しますが、発注書と発注請書の交換によって、契約の存在と内容を明確に証明できるという点です。
特に高額案件や複雑なサービス委託では、請書の取得が重要になります。
個別契約書とは
個別契約書とは、特定の取引について詳細な契約条件を定める書類です。
発注書が取引内容(品名、数量、金額、納期など)を簡潔に記載するのに対し、個別契約書は以下のような詳細な条項を含みます。
- 契約の目的と範囲
- 納品物の仕様や品質基準
- 検収条件
- 責任の範囲と損害賠償
- 知的財産権の帰属
- 秘密保持義務
- 契約解除条件
実務上の使い分けとしては、取引基本契約書で全般的な条件を定めておき、個別の案件ごとに発注書を発行するという運用が一般的です。
この場合、発注書に「本発注は○○年○月○日締結の取引基本契約書に基づく」と記載することで、詳細な契約条件を参照できます。
発注書と契約書の関係性
「基本契約書があれば発注書は不要なのでは?」「逆に発注書だけで契約として成立するの?」といった疑問をお持ちの方もいるでしょう。
ここでは、発注書と各種契約書の関係性を整理します。
基本契約書と発注書の違い
基本契約書(取引基本契約書)と発注書は、カバーする範囲と目的が異なります。
基本契約書は、継続的な取引全体に適用される「枠組み」を定めるもので、支払条件、検収ルール、責任範囲、紛争解決方法など包括的な条件を規定します。
一度締結すれば複数回の取引に適用されるため、長期的な取引関係を前提とした書類といえます。
一方、発注書は個別の取引ごとに具体的な内容(品名、数量、金額、納期)を特定するものです。取引のたびに発行されます。
つまり、基本契約書は「ルールブック」、発注書は「個別の注文票」という関係性です。
建設業やIT業界など、同じ取引先と継続的に取引する場合は、基本契約書で全体のルールを定め、個別案件ごとに発注書を発行する運用が効率的です。
発注書が契約書の代わりになるケース
発注書に「本状受領をもって契約成立とする」といった文言が記載されており、受注者がこれを受領して承諾した場合、発注書自体が契約書としての効力を持つことがあります。
また、以下のような場合も発注書が契約書に準じる効力を持つと判断されることがあります。
- 発注書に詳細な取引条件(検収方法、支払条件、責任範囲など)が記載されている
- 受注者が発注請書を返送している
- 実際に履行が開始され、双方が合意していると認められる状況がある
ただし、後述する印紙税の観点では、発注書単独では原則として収入印紙の貼付は不要ですが、契約書と見なされる内容の場合は必要になることがあります。
両方必要な取引と片方で済む取引
取引の性質によって、必要な書類は異なります。
基本契約書と発注書の両方が必要な取引
- 継続的な取引関係が見込まれる場合
- 高額または複雑な案件が多い場合
- システム開発、製造委託、建設工事など仕様が詳細な取引
- リスク管理を徹底したい取引
発注書のみで済む取引
- 単発の取引
- 定型的で少額の取引
- 取引条件が明確でシンプルな場合
契約書のみで済む取引
- 長期間にわたる包括的なサービス契約(保守契約、コンサルティング契約など)
- 契約書内で納品物や対価が明確に特定されている場合
実務上は、リスク管理の観点から、重要な取引については基本契約書と発注書の両方を整備することが推奨されます。
発注書を発行するタイミングと取引の流れ
発注書をいつ発行すればよいのか、タイミングを間違えると法的リスクや実務上のトラブルにつながります。
特に取適法が適用される取引では、発行タイミングが法律で厳格に定められています。
見積→発注→発注請書→納品の標準的な流れ
標準的な商取引における発注書の位置づけを、時系列で確認しましょう。
まず発注者が受注候補者に対し、商品やサービスの内容、数量、希望納期などを伝え、見積書の提出を依頼します。
次に受注候補者が見積書を提出し、必要に応じて価格や条件の交渉を行います。
交渉がまとまったら、発注者が正式に発注書を発行します。
これが「申込み」の意思表示となります。受注者が発注内容を確認し、承諾の意思として発注請書を返送すると、この時点で契約が成立します。
その後、受注者が商品を納品、またはサービスを提供し、発注者が検収を行います。最後に受注者が請求書を発行し、発注者が代金を支払うという流れです。
見積依頼から発注までの期間
見積依頼から発注までの期間は、案件の複雑さや金額によって異なります。
- 定型的な商品購入:数日~1週間程度
- システム開発や建築工事:2週間~1ヶ月以上
見積書には通常、有効期限が設定されています。
市場価格の変動や受注者のリソース状況の変化を反映しない古い見積りに基づいて発注することを避けるため、有効期限内に発注判断を行う必要があります。
発注書発行後の変更・キャンセル
発注書を発行した後に内容を変更したり、キャンセルしたりする場合は、慎重な対応が必要です。
通常の取引の場合
受注者との合意があれば変更やキャンセルは可能です。
ただし、すでに作業が開始されている場合は、発生した費用を負担する必要があります。
変更内容は口頭ではなく、変更発注書や覚書などの書面で明確に記録しましょう。
取適法が適用される取引の場合
中小受託事業者に責任がないにも関わらず発注内容を一方的に変更したり、中小受託事業者の利益を不当に害する目的で変更・取り消しをしたりすることは、取適法違反となります。
変更が必要な場合は、その理由を明確にし、中小受託事業者と十分に協議した上で、書面で合意内容を残すことが必須です。
口頭発注からの書面化タイミング
実務では、電話やメールで「急ぎでお願いします」と口頭で発注し、後から書面を作成するケースもあります。しかし、これには以下のような大きなリスクが伴います。
- 発注内容の認識違いが生じやすい
- 取適法が適用される場合は書面交付義務違反となる
- 証拠が残らず、紛争時に不利になる
取適法が適用される取引では、委託事業者(発注側)は発注後「直ちに」書面を交付する義務があります。
この「直ちに」とは、発注と同時、または可能な限り速やかにという意味です。
口頭で発注した数日後に書面を作成するという運用は、書面交付義務違反のリスクがあります。
実務上の推奨対応としては、口頭で緊急の依頼をする場合でも、その直後にメールで発注内容を文書化し、PDFの発注書を送付するという流れを徹底すべきです。
発注書の後から契約内容を変更する場合の対応
発注書発行後に仕様変更や数量変更が必要になった場合は、以下の手順で対応します。
- 変更内容の協議:受注者と変更の必要性、内容、影響(金額、納期など)を協議
- 書面での合意:変更内容を「変更発注書」「変更契約書」「覚書」などの書面で明確化
- 変更請書の取得:受注者から変更内容への承諾書面を取得
- 記録の保管:元の発注書と変更書面を紐付けて保管
特に取適法適用取引では、変更の経緯と合意内容を詳細に記録し、中小受託事業者に不利益を与えていないことを証明できる体制が必要です。
発注書の正しい書き方と必須記載項目
発注書には何を書けばよいのか、必須項目と実務上のポイントを解説します。
特に取適法が適用される取引では、法定の12項目を漏れなく記載する必要があります。
発注書に必ず記載すべき12項目
発注書の記載項目は、一般的な商取引の場合と、取適法が適用される場合で異なります。
ここでは、より厳格な要件である取適法の12項目を基準に解説します。
これらを満たしていれば、一般取引でも十分な内容になります。
①宛先(「御中」「様」の使い分け)
発注先の企業名または担当者名を記載します。
- 企業や部署宛ての場合:「株式会社○○ 御中」「○○部 御中」
- 担当者が特定されている場合:「株式会社○○ ○○部 山田太郎 様」
注意点として、「株式会社○○ 御中 山田太郎 様」のように、御中と様を併用するのは誤りです。
また、「課長様」のように役職名に「様」を付けるのは二重敬語になるため、「○○課長 山田太郎」または「山田太郎 様(○○課長)」と記載します。
契約書類は対等な立場を前提とするため、形式的には敬称を省略することも可能ですが、実務上は「御中」を使用するのが一般的です。
②発注日
発注書を発行した日付を記載します。これは「委託を行った日」として、取適法の12項目の一つです。
取適法適用取引では、この日付が支払期日の起算点となるため、非常に重要です。
実際の発注日と異なる日付を記載することは、法令違反となる可能性があります。
③発注書番号
発注書に固有の管理番号を付与します。
| 番号の付け方例 | 「PO-2025-001」(PO=Purchase Order:発注書の略、年、連番) 「2025120001」(年月日+連番) 「A-001」(部署記号+連番) |
|---|
発注書番号があることで、後から関連する見積書、納品書、請求書、契約書などとの紐付けが容易になり、社内管理が効率化されます。
④発注元情報(会社名・住所・電話番号)
発注者である自社の情報を記載します。
- 会社名(正式名称)
- 住所
- 電話番号
- 担当部署・担当者名
- メールアドレス(任意だが推奨)
取適法では「委託事業者の名称」が必須項目となっています。
⑤商品・サービス名
発注する商品やサービスの名称を具体的に記載します。
| 記載例 | 物品:「A4コピー用紙 500枚×10箱」 サービス:「ECサイト構築業務」「建物外壁塗装工事」 |
|---|
取適法では「委託内容(給付内容)」として、何を発注しているのかを明確に特定する必要があります。
曖昧な記載は、後のトラブルの原因となります。
⑥数量
商品の数量、またはサービスの規模を記載します。
- 物品:「10箱」「50台」
- サービス:「1式」「延べ作業時間200時間」「対象面積500㎡」
サービスの場合、数量の表現が難しいことがありますが、できるだけ具体的な単位で記載することが推奨されます。
⑦単価
商品1単位あたり、またはサービスの単位あたりの価格を記載します。
「@1,000円」「単価5,000円/時間」といった形で記載します。
取適法では具体的な「製造委託等代金の金額」の明示が求められます。
⑧金額
単価×数量の小計金額を記載します。複数の品目がある場合は、品目ごとの金額を明記します。
⑨消費税・合計金額
消費税額と、税込みの合計金額を明記します。
| 記載例 | 小計:100,000円 消費税(10%):10,000円 合計:110,000円 |
|---|
消費税の税率(軽減税率適用の有無)も明記することが望ましいです。
⑩納期・納品場所
商品やサービスの納品期限と、納品場所を記載します。
| 納期の記載例 | 「2025年12月31日まで」 「発注日から30日以内」 |
|---|---|
| 納品場所の記載例 | 「東京都○○区○○ 当社本社1階受付」 「指定URLへのアップロード」(デジタルデータの場合) |
取適法では「給付を受領する期日」と「給付を受領する場所」が必須です。
⑪支払条件
代金の支払方法と支払期日を明記します。取適法では「製造委託等代金の支払期日」と「製造委託等代金の支払方法」が必須項目です。
取適法(従来の下請法)及びフリーランス保護法では、支払期日について、「給付を受領した日から60日以内」とすることが定められています。
注意が必要なのは「受領した日」を起算点とすべきという点です。これを誤解して「検収した日」としてしまうと、法律違反となるおそれがあります。「検収」を基準としてしまうと、検収がまだ終わっていないから支払えないとして、発注者側の判断で事実上の支払期日の遅延が生じかねないからです。
発注書においても、「受領した日から60日以内」の支払期日を設定するように注意してください。
| 支払期日の記載例 | 「納品後30日以内」 「毎月末日締め、翌月末日払い」 |
|---|---|
| 支払方法の記載例 | 「銀行振込(○○銀行○○支店 普通預金 口座番号1234567)」 「電子記録債権(額○○円、満期日○年○月○日)」 |
特に電子記録債権を使用する場合は、その金額と満期日の具体的な記載が法律で求められています。また、2026年1月1日施行の取適法では、支払い条件として、手形による支払いが原則禁止、また、振込手数料を受注者に負担させることも禁止となります。
⑫備考
その他、取引に必要な特記事項を記載します。
| 備考欄の記載例 | 原材料を支給する場合、その内容と対価 運送、倉庫保管、情報処理の委託である旨(該当する場合) 役務提供委託の場合、役務の提供期間・方法 検収条件や品質基準 有効期限(「本発注書の有効期限は発行日から30日間とする」など) |
|---|
取適法では、原材料支給や役務提供の詳細など、取引内容に応じた追加情報の記載が求められます。
参考:2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会
発注書の送付方法と注意点

作成した発注書をどのように取引先に送付するか、それぞれの方法とメリット・デメリット、注意点を解説します。
印鑑・署名は必要か?電子契約時代の対応
発注書に印鑑や署名は必須なのでしょうか。
日本の法律上、多くの契約は口頭でも成立し、必ずしも印鑑や署名が必要というわけではありません。
発注書についても、法律上は押印義務はありません。
ただし実務上は、発行者の意思を明確にする、書類の真正性を担保する、取引先の社内規程で押印が求められているといった理由から押印されることが多いです。
近年、電子契約システムの普及により、紙の書類に押印する必要性は減少しています。
電子ファイルで作成された発注書や契約書には、印鑑の代わりに電子署名やタイムスタンプを付与することで、真正性と改ざん防止を担保します。
電子契約のメリット
- 印紙税が不要
- 郵送コスト・時間の削減
- 紛失リスクの低減
- 検索性・管理効率の向上
メール送付(PDFが基本)
現在、最も一般的な送付方法はメールによる電子送付です。
メール送付には、即時に相手に届く、郵送コストがかからない、テレワーク環境でも対応可能、送受信の記録が残るといったメリットがあります。
メールで発注書を送付する際は、必ずPDF形式に変換してから送付します。
Word(ワード)やExcel(エクセル)のままでは、受信者側で内容を改ざんされるリスクがあるためです。
PDF化することで、文書の固定化と証拠保全が実現します。
メール送付時は、受信者がすぐに内容を把握できるよう、件名に「【発注書】○○案件のご発注(発注書No.2025-001)」といった形で発注書であることと案件名を明記します。
本文には発注内容の要点(件名、発注書番号、納期、金額)も記載しておくと、PDFが開けない場合でも内容を確認できます。
PDFのパスワード保護の必要性
発注書には金額や取引内容などの機密情報が含まれるため、セキュリティ対策も重要です。
パスワード保護が推奨されるのは、高額な取引(数百万円以上)、機密性の高い情報を含む場合、社内規程でパスワード保護が義務付けられている場合です。
パスワード保護をする場合は、パスワードは別のメール、または電話などの異なる経路で伝えることが推奨されます。
ただし、過度なセキュリティ対策は業務効率を下げることもあるため、取引の重要度に応じて適切なレベルを選択しましょう。
電子契約システムの利用
電子契約システムを利用すると、発注書の作成から送付、受領、保存までを一貫して電子的に処理できます。
電子契約システムのメリット
- 法的効力の担保(電子署名、タイムスタンプ)
- 印紙税が不要
- 送付・返送の時間短縮
- 自動的に電子帳簿保存法の要件を満たす
- 書類の検索・管理が容易
主要な電子契約サービス
- クラウドサイン
- DocuSign
- GMOサイン
- freeeサイン
導入コストはかかりますが、長期的には業務効率化とコンプライアンス強化の両面でメリットがあります。
電子署名システムの導入は、法律的な観点から見ても有効です。
電子署名法では、「電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」と定められていますが(同法3条)、同法の「電子署名」として認められる要件の一つとして国の認定を受けた認証業務を行う事業者による認証があります。
電子契約サービスを提供している事業者は、この電子署名法上の認証事業の認定を受けているところが多いですので、電子契約サービスを導入することによって、電子署名法による真正成立の推定を受けられることになります。
もちろん、電子署名法上の電子署名の要件を満たさない電子契約であっても契約の効力が否定されるわけでありませんが、法的な正確性を確保するためには電子契約サービスの導入を検討してみる価値はあります。
発注書の保存期間と管理方法
発注書は税法により一定期間の保存が義務付けられています。保存義務を怠ると、税務調査時に不利な扱いを受ける可能性があります。
法人・個人事業主別の保存期間
発注書は「証憑書類」に該当し、法人税法や消費税法によって保存期間が定められています。
法人の保存期間(原則7年)
法人の場合、発注書の保存期間は原則として7年間です。
この起算点は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日からです。
| 保存期間の計算例 | 2025年3月期の発注書の場合 |
|---|---|
| 確定申告提出期限 | 2025年5月31日 |
| 保存期間の起算日 | 2025年6月1日 |
| 保存期限 | 2032年5月31日まで |
個人事業主の保存期間(原則5年)
個人事業主の場合、保存期間は原則として5年間です。
ただし、消費税の課税事業者である場合は、消費税法により7年間の保存が求められるため、実質的には7年間保存することが推奨されます。
欠損金がある場合の保存期間延長
法人で青色申告を行っており、欠損金額(赤字)が生じた事業年度については、保存期間が延長されます。
| 事業年度開始日 | 保存期間 |
|---|---|
| 2018年4月1日以後 | 最長10年間 |
| 2018年3月31日以前 | 9年間 |
繰越欠損金の控除期間が最長10年であることに対応しています。
実務上、赤字が出た年度とそうでない年度で保存期間を変えるのは煩雑なため、重要な証憑書類については安全策として一律10年間保存することが推奨されます。
参考:民法 | e-Gov法令検索 ※第522条(契約の成立と方式)などが、「意思表示によって契約が成立する」根拠となっています
電子データでの保存要件(電子帳簿保存法)
発注書を電子データで保存する場合、電子帳簿保存法(電帳法)の要件を満たす必要があります。
2024年1月以降、電子取引(メールやシステムで受領・発行した取引データ)については、電子データのまま保存することが義務となっています。
つまり、メールで受け取った発注書PDFを印刷して紙で保存するだけでは、法的要件を満たしません。
電子帳簿保存法に則った電子保存を行うには、真実性の確保(タイムスタンプの付与、訂正削除の履歴が残るシステムの使用など)、可視性の確保(画面表示や印刷が可能な状態の維持)、検索機能の確保(取引年月日、金額、取引先名での検索、範囲指定検索、組み合わせ検索)の要件を満たす必要があります。
これらの要件を個人で対応するのは困難なため、電子帳簿保存法対応のクラウドサービスや会計ソフトの活用が現実的です。
発注書に関するよくあるトラブルと対処法

実務では様々なトラブルが発生します。
典型的な問題と、その対処法を知っておくことで、迅速かつ適切な対応が可能になりますのでぜひ参考にしてください。
発注書なしで取引が進んでしまった場合
「急ぎだったので口頭で発注し、気づいたら納品が完了していた」というケースは珍しくありません。
事後発行は有効か?
発注書なしで取引が進んでしまった場合、事後発行の扱いは取引の種類によって異なります。
スクロールできます→
| 取引の種類 | 事後発行の有効性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 一般的な商取引 | 有効(取引の証拠として一定の意味がある) | 発注日を実際の日付に遡らせることは虚偽記載となるため避けるべき |
| 取適法適用取引 | 書面交付義務違反 | 発注後「直ちに」書面交付する義務があり、口頭発注時点で取適法は全面適用される |
対処法
速やかに発注書を作成・交付し、発注日は実際に口頭で発注した日付を記載します。
今後同様の事態が起きないよう、業務フローを見直すことも重要です。
メールでのやり取りを証拠として残す方法
口頭発注後、メールで発注内容を確認するやり取りがあった場合、そのメールも重要な証拠となります。
発注内容が記載されたメールをPDF化して保存し、送受信日時、差出人、受信人が明確にわかる形式で保存します。
電子帳簿保存法の検索要件を満たすよう、取引先名、金額、日付で検索できるように管理することも重要です。
ただし、メールのやり取りだけでは、取適法の3条書面としては不十分な場合が多いため、やはり正式な発注書の発行が必要です。
発注書と実際の納品内容が異なる場合
「発注書では10個と書いてあったのに、5個しか納品されなかった」「仕様が違う」といったケースです。
数量・仕様違いの対応手順
まず発注書、納品書、現物を照合し、受注者に連絡して状況を確認します。
次に発注書の記載ミスか、受注者の手配ミスか、運送中の問題かを明確にします。
その上で、不足分の追加納品を依頼するか、仕様違いの場合は再製作または返品・返金を協議し、合意内容を書面(メール可)で確認します。
責任の所在と損害賠償
発注者側のミス(発注書の記載誤り)の場合、受注者は発注書に従って対応しているため、原則として責任はありません。追加費用が発生する場合は発注者が負担します。
受注者側のミス(納品ミス)の場合、受注者の責任で是正してもらい、是正に要する費用は受注者負担となります。
納期遅延により損害が発生した場合、損害賠償請求も可能ですが、契約内容によります。
契約書や基本契約書で責任範囲を明確化しておくことが、紛争予防に重要です。
発注書の金額と請求書の金額が合わない場合
「発注書では10万円だったのに、請求書が15万円になっている」といったケースです。
よくある原因として、桁数の入力ミス(100,000円と1,000,000円など)、単価や数量の認識違い、追加作業が発生したが変更発注書を発行していなかった、消費税の計算ミス、別の取引先の金額を誤って記載といったことが挙げられます。
発注書と請求書を突き合わせてどこが違うのか確認し、受注者に連絡して金額の根拠を確認します。
正当な追加作業であれば変更発注書を発行して承認し、単純なミスであれば正しい金額で請求書を再発行してもらいます。
金額の不一致は、支払処理に遅延を生じさせ、取適法違反(支払遅延)のリスクにもつながるため、迅速な対応が必要です。
発注書の紛失・再発行の対応
紙の発注書を紛失してしまった場合や、記載内容にミスを発見した場合の対応です。
紛失時は、受注者に紛失の旨を連絡して謝罪し、受注者側に控えがあればコピーを送ってもらいます。
再発行が必要な場合は、元の発注書と同じ内容・同じ発注書番号で再発行し、再発行である旨を明記します。
記載ミス発見時は、受注者に連絡して誤りの内容を説明し、修正内容を双方で確認した上で、訂正印での修正ではなく正しい内容で発注書を再発行し、速やかに送付します。
紙の発注書は紛失リスクが高く、再発行の手間も発生します。電子化することで、これらのリスクと手間を大幅に削減できます。
まとめ

発注書は単なる形式的な書類ではなく、取引内容を明確にし、トラブルを予防し、法的義務を果たすための重要なツールです。
特に取適法が適用される取引では、発注後「直ちに」法定12項目を網羅した書面を交付することが義務であり、違反は罰則の対象となります。
実務においては、電子契約システムの活用により、印紙税の削減、業務効率化、電子帳簿保存法への対応を同時に実現できます。
発注書の適切な作成・管理・保存を通じて、信頼性の高い取引関係を構築しましょう。
発注書の発行は、法律的には、民法上の申込みの意思表示です。申込のみで直ちに契約成立するわけではありませんが、ケースによっては申込みにより契約成立となることもあります。また、基本的には申込みを勝手に撤回したりすることは難しいです。発注書の発行は、契約成立に向けた重要な行為であるということを意識しておきましょう。
加えて、取適法やフリーランス保護法では、契約の内容や支払い条件などを記載した書面を受注者に交付すべき義務があり、発注書は、この義務を履行するための書面であるという側面もあります。
発注書を電子データで作成する場合には、電子帳簿保存法の要件を満たす必要もあります。
これらのことを意識して正確な発注書を作成するように取りくんでください。
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