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2026年1月1日に施行された中小企業受託取引適正化法(通称:取適法)は、従来の下請代金支払遅延等防止法(通称:下請法)から名称が変更されただけではありません。
適用範囲が大幅に拡大され、物流業界を対象とした「特定運送委託」が新設されるなど、多くの企業の実務に影響を与える重要な法改正となっています。
「自社は違反していないだろうか?」
「もし違反してしまった場合、どんな罰則があるのか?」
「具体的にどう対応すればいいのか?」
こうした疑問や不安をお持ちの経営者・実務担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、取適法の罰則内容、違反時のリスク、そして企業が取るべき具体的な実務対応までをわかりやすく解説します。
自社のコンプライアンス体制を見直す際にぜひお役立てください。
2008年に弁護士登録し、大阪市内の法律事務所に勤務したのち、2021年に独立開業しました。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
罰則の規定は、従来の下請法のものとも共通していました。取適法で罰則が新たに創設されたものではありません。罰則の対象や内容も基本的には下請法と同様です。ただ、本文にも出てきますが、取適法では、従業員数の基準が追加、対象取引に運送委託業務が追加されるなど、従来の下請法よりも取適法が適用される範囲が拡大されることになります。取適法の適用範囲が広がったことで、取適法違反による罰則を受けるリスクも上がったと言えます。どのような場合に取適法違反として罰則を受けるリスクがあるのか、しっかりと把握しておいたほうが良いでしょう。
【目次】
取適法(中小企業受託取引適正化法)とは

2026年1月1日、従来の下請法が抜本的に見直され、取適法として新たに施行されました。
この法改正の背景には、これまでの「資本金」のみを基準とした枠組みでは、スタートアップ企業やフリーランス、IT・サービス業界における複雑な委託取引を十分に保護できないという課題がありました。
そこで取適法では、「従業員数」という新たな基準を追加し、保護の対象を大幅に拡大しています。
2026年1月1日改正のポイント
今回の改正で、とくに企業が注意すべきポイントは以下の3点に集約されます。
1. 下請法から取適法への名称変更
これまでは「下請」という言葉の通り、製造業や建設業などの垂直構造を主な対象としてきました。
しかし、現代のビジネスシーンでは、ソフトウェア開発、コンテンツ制作、コンサルティングなど、「受託」という形での委託取引が主流です。
名称変更は、より広範な「業務委託取引」を法律の射程に収めるという国の意思表示といえます。
参照:公正取引委員会「取適法」
2. 従業員数基準の追加
最大の変更点は、適用対象の判定基準に「従業員数」が加わった点です。
これまでは資本金のみで判定されていましたが、2026年から導入される「従業員数基準」により、これまで取適法の対象外だった企業も規制対象となる可能性があります。
これにより、「自社は資本金が少ないから対象外だろう」と考えていた企業も、従業員数次第では取適法の適用を受けることになります。
自社が委託事業者(旧:親事業者)になるのか、中小受託事業者(旧:下請事業者)になるのか、改めて確認が必要です。
3. 特定運送委託の追加
物流業界の人手不足や過酷な労働環境を改善するため、運送業務に関する取引が新たに「特定運送委託」として取適法の対象に加わりました。
これにより、荷主企業による無理な待機時間の強要や、不当な附帯業務(荷積み・荷下ろしなど)の押し付けが厳しく規制されることになります。
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
参照:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会」
取適法の対象となる取引・事業者

自社が「委託事業者(発注側)」になるのか、「中小受託事業者(受託側)」になるのかを判定する基準は以下の通りです。
2026年改正版の最新基準を確認しましょう。
資本金基準・従業員数基準の一覧表
| 区分 | 物品製造・修理・情報成果物・役務提供(一般) | 運送・倉庫・特定のサービス業 |
|---|---|---|
| 委託事業者(発注側) | 資本金3億円超 または 従業員300人超 | 資本金5,000万円超 または 従業員100人超 |
| 中小受託事業者(受託側) | 資本金3億円以下 かつ 従業員300人以下 | 資本金5,000万円以下 かつ 従業員100人以下 |
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
判定には、「資本金」と「従業員数」の2つの基準があります。
いずれか一方の条件を満たせば該当するため、まずは資本金を確認し、基準に満たない場合でも従業員数で改めて判定を行う必要があります。
そのため、自社の従業員数を正確に把握し、取引先の資本金・従業員数も確認しておくことが重要です。
従業員数の具体的なカウント方法や、取引先の情報が不明な場合の対応については、後で詳しく解説します。
取適法違反の罰則は3種類【行政措置・刑事罰・民事責任】
取適法に違反した場合、企業は行政措置、刑事罰、民事責任という3種類の責任を問われる可能性があります。
| 罰則 | 内容 |
|---|---|
| 罰金(刑事罰) | 50万円以下(法人・個人) |
| 社名公表(行政措置) | 勧告に従わない場合に企業名公表 |
| 遅延利息(民事責任) | 年率14.6%の利息負担 |
これらは単独で科されることもあれば、同時に複数の責任を負うこともあるため、それぞれのリスクを正しく理解しておきましょう。以下で詳しく解説していきます。
①行政措置:改善指導・勧告・社名公表
公正取引委員会は、取適法に基づき、違反行為が確認された委託事業者に対して行政措置(改善指導または勧告)を行います。
改善指導
違反の疑いがある行為に対して是正を求めるもので、企業名は公表されません。
比較的軽微な違反や、企業が自主的に改善する意思を示している場合に適用されることが一般的です。
勧告
明確な違反行為が認められた場合に、是正措置を求める行政処分です。
勧告を受けた企業名や違反内容は、公正取引委員会の「取適法(下請法)勧告一覧」ページに掲載されます。
公正取引委員会は、違反が軽微で企業が自主的に是正した場合には、勧告ではなく指導にとどめることがあると説明しています。
つまり、早期に自主的な是正を行えば、社名公表を避けられる可能性があるということです。
参照:公正取引委員会「(令和7年5月12日)令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」
公正取引委員会には、取引公正のために必要があるときには、取引に関する報告をさせたり、事務所や事業所への立入り、帳簿書類等の物件の検査を行うなどの強い権限が認められています。勧告は、こうした報告検査を経て、指導も受けたのになお改善が見られず悪質と判断された場合に出される最終的なものです。勧告を受けて社名公表されると会社へのダメージが大きいので、勧告を受けないよう、できる限り自主的に是正措置を取るようにしましょう。
罰則により社名が公表された場合の3つのリスク
罰則を受け一度社名が公表されてしまうと、そのダメージは計り知れません。
- 信用の失墜:「コンプライアンス意識の低い企業」という評価が定着し、社会的な信用を大きく損ないます。
- 取引先からの取引停止:ESG投資(環境・社会・ガバナンスの視点を取り入れた投資)を重視する大手企業や金融機関から、取引の継続を拒否される可能性があります。
- 株価の下落:上場企業の場合、不祥事として報道され、株価に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
公正取引委員会による公表事例の検索方法
公正取引委員会の公式サイト内「取適法(下請法)勧告一覧」ページでは、過去の違反事例をキーワード検索できます。
自社と同じ業界で、どのような行為が違反とされているかを事前に確認しておくことで、同様の違反を未然に防ぐことができます。
②刑事罰:50万円以下の罰金
行政的な措置(指導・勧告)だけでなく、悪質な場合や法律で定められた義務を怠った場合には、刑事罰が科されることがあります。
取適法における刑事罰は、50万円以下の罰金です。
書面交付義務違反
発注時に必要な事項(給付の内容、代金の額、支払期日など)を記載した書面(または電子データ)を交付しなかった場合です。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第十四条)」
発注内容や代金、支払期日などを記載した書面(又は電磁的方法)を渡さずに取引を行った場合、それだけで刑事罰の対象となります。
地味ですが、上記の4条2項の規制に違反して書面を交付しなかったときというのは、下請法にはなかった規制です。同項では、委託事業者側が電磁的方法で契約内容等を明示した場合であっても、中小受託事業者から書面交付を求められたときは遅滞なく交付しなければならないと定められています。これは、中小受託事業者が電子データに馴染みのないケースを想定して中小受託事業者の保護を図るものです。委託事業者としては、電子データで送信しても取適法違反になるリスクがあるという点に、ご注意ください。
書類保存義務違反
取引に関する書類や電子データを作成・保存していなかった場合です。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第十四条)」
取引記録を作らない、保存しない、あるいは虚偽の内容で作成した場合も、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
検査拒否・虚偽報告
公正取引委員会や中小企業庁などによる調査に対して、報告を拒否したり、虚偽の報告を行ったりした場合です。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第十五条)」
立入検査を拒絶したり、事実と異なる説明を行ったりした場合も、それ自体が刑事罰の対象となります。
両罰規定(法人と個人の両方に罰金)
取適法には、いわゆる「両罰規定」が設けられています。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第十六条)」
違反行為を行った担当者個人だけでなく、その担当者を雇用している会社(法人)自体にも、同時に罰金が科される可能性があるという仕組みです。
③民事上の責任:損害賠償請求のリスク
法律上の罰則以外に、受託側(中小受託事業者)から直接訴えられるリスクもあります。
不法行為による損害賠償
不当な受領拒否や返品、代金の減額などにより受託側が損害を被った場合、民法に基づく「不法行為」として、損害賠償を請求される可能性があります。
契約の無効リスク
取適法に違反する著しく不当な内容(例:買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請)は、社会的に認められない「公序良俗に反する行為」とみなされ、契約そのものが法律上無効とされるリスクがあります。
遅延利息(年率14.6%)の支払義務
支払期日までに代金を支払わなかった場合、受領日から60日を経過した日から、年率14.6%の遅延利息を支払う義務が生じます。
これは消費者金融並みの高金利であり、支払い遅延が複数件発生すると、利息だけでも相当な金額になる可能性があります。
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
14.6%という年率は、退職後の未払い賃金や消費者契約などでも定められているものです(賃金の支払の確保等に関する法律6条、消費者契約法9条など)。
今回の取適法改正でのポイントとしては、遅延利息の対象に代金減額も含まれるようになったという点が挙げられます。中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに代金を減額した場合、委託事業者は、減額した金額に対する遅延利息も併せて支払わなければならなくなりました。
罰則以外の経済的損失
取適法違反による影響は、法的な罰則にとどまりません。
企業の事業継続性や成長性に直結する、以下のような深刻な経済的損失が発生します。
- 取引先からの信頼喪失:優秀な協力会社が離れていき、結果的に自社の生産性が低下する可能性があります。とくにESG投資を重視する大手企業は、コンプライアンス違反のある取引先との関係を見直す傾向が強まっています。
- 金融機関の融資審査への影響:行政処分の記録がある企業は、融資を受ける際のコンプライアンス審査で不利になることがあります。金融機関は取引先の法令遵守体制を厳しくチェックしており、違反歴は審査において重大なマイナス要因となります。
- 採用活動への悪影響:「コンプライアンスに問題がある企業」というイメージが定着し、優秀な人材を確保しにくくなります。とくに若い世代は企業の社会的責任を重視する傾向が強く、違反企業への就職を避ける傾向があります。
これらの損失は、罰金や遅延利息といった直接的なコストよりも、長期的には企業に大きなダメージを与える可能性があります。
取適法違反は「法的リスク」であると同時に、「経営リスク」でもあることを認識する必要があります。
罰則を回避する5つの実務ポイント

罰則を避けるためには、「知らなかった」では済まされない実務的なルールを徹底する必要があります。
①発注時の書面交付を徹底する
取適法では、発注の瞬間に書面(または電磁的記録)を交付することが義務付けられています。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第十四条)」
第四条に基づく明示事項(書面・電磁的方法)チェックリスト
以下の内容が漏れていると、第十四条に基づき刑事罰(50万円以下の罰金)の対象となる可能性があります。
- 委託事業者および中小受託事業者の名称
- 発注日
- 給付の内容(仕様、品名など)
- 受領期日(納期)
- 受領場所
- 検査完了日(検査をする場合)
- 製造委託等代金の額(または算定方法)
- 支払期日
- 支払方法
電子メール・SNSでの明示方法(2026年施行・取適法対応)
現代ではSNS(LINE、Slackなど)や電子メールでの発注も、第四条第一項に定める「電磁的方法」として認められます。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第四条)」
ただし、第七条が定める「書面等の作成及び保存」の義務を果たすため、後から内容を改ざんできない形(PDFの添付やシステム上のログ保存)で記録を残すことが強く推奨されます。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第七条)」
②支払期日は受領日から60日以内に設定
代金の支払期限には、絶対的な「60日ルール」が存在します。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第三条)」
60日の正しい計算方法(土日祝含む)
支払期限のカウントは、委託事業者が「給付を受領した日」から開始されます。
「検査をするかどうかを問わず」この日からカウントすると定められているため、検査に時間を要しても期限は延長されません。
また、「受領日から60日以内」には土日祝日もすべて含まれます。
「月末締め翌々月払い」が危険な理由
たとえば「毎月1日納品、月末締め、翌々月10日払い」としている場合、最初の1日に納品されたものについては、支払日まで70日以上経過してしまいます。
「60日以内」という制限に抵触する完全な違反です。
たとえ社内規定がそうなっていても、法律上は受領から60日を過ぎた時点で「支払遅延」とみなされ、遅延利息の支払い義務が生じます。
検査期間の取り扱い
第三条では、「検査をするかどうかを問わず」受領日から起算して60日以内と定めています。
そのため、「検査に合格した日から60日以内」という設定は認められません。
必ず「受領日から60日以内」に収まるよう、支払いサイクルを調整する必要があります。
③取引記録を2年間確実に保存
委託事業者は、取引の透明性を確保するため、給付の内容や代金の支払いに関する記録を作成し、保存する義務があります。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第七条)」
第七条に基づく書面等(記録)の作成義務
委託事業者は、中小受託事業者に対して製造委託等をした場合は、給付の内容、受領、代金の支払その他の事項について記載・記録した「書面」または「電磁的記録」を作成し、これを保存しなければなりません。
これに違反して、記録を作成・保存しなかったり、虚偽の記録を作成したりした場合には、罰則としての罰金50万円以下に処せられます。
保存の形式と検索性
紙の書類だけでなく、電子計算機で処理できる「電磁的記録」による保存も認められています。
※「いつ、誰に、いくらで発注し、いつ支払ったか」を即座に確認できる状態で整理することや、電子帳簿保存法との兼ね合いについては明文の規定はありませんが、実務上、行政による立入検査(第十二条)へ対応するために重要な要素です。
保存期間について
委託事業者は、中小受託事業者との委託取引が完了した後、その委託取引に関する記録(書面または電磁的記録)を2年間保存する義務があります。
第七条では、具体的な期間を「公正取引委員会規則で定めるところにより」と規定していますが、政府の公式見解としてこの「2年間」という期間が明確に示されています。
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
④振込手数料は必ず委託側が負担
2026年改正において、実務上の大きな変更点となったのが「振込手数料」の扱いです。
令和8年(2026年)1月1日から施行された取適法において、振込手数料の扱いは明確に禁止事項として定義されています。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第五条)」
合意があっても「減額」に該当
中小受託事業者との間で手数料負担に関する合意がある場合であっても、代金から振込手数料を差し引いて支払うことは、第五条第一項第三号が禁止する「製造委託等代金の減額」に該当し、違反となります。
実費の有無を問わない禁止
実費を超える手数料の差し引きはもちろん、受取手数料などの名目での負担を中小受託事業者に生じさせること自体が禁止の対象です。
取適法の条文の文言としては、「代金の額を減ずること」であり、従来の下請法と同じです。ただし、公正取引委員会の運用基準において、「合意の有無に関わらず、委託事業者が製造委託等代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の銀行振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金額から差し引く行為は代金の減額に該当する。」として、振込手数料を差し引くことは「代金の額を減ずること」に該当することが明示されました。中小受託事業者が同意していても禁止されるという点に注意が必要です。
⑤価格改定の協議に誠実に対応
近年のコスト上昇を受け、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、価格交渉のプロセスに関する規定が新設されました。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第五条)」
「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止(新設)
中小受託事業者から価格協議の求めがあったにも関わらず、協議に応じなかったり、必要な説明や情報の提供を拒んだりして、一方的に代金を決定する行為は、第五条第二項第四号により禁止されます。
不適切な対応の例
協議の求めを無視する、繰り返し先送りにする、あるいは「値上げの話なら受けない」と最初から拒絶することも違反となります。
協議を求められた場合の対応フロー
- 中小受託事業者からの価格協議の申し出に対し、積極的に協議の場を設ける。
- 協議において、価格据え置きやコスト増に見合わない引き上げ幅とする場合には、その理由について必要な説明や情報提供を行う。
- 一方的に結論を出さず、対等な関係に基づいた価格決定を行う。
取適法に違反してしまった場合の対処法

万が一、社内で取適法違反が発覚した場合、または不当な扱いを受けた場合には、以下を参考に速やかに行動してください。
委託事業者(発注側)の対応
発注側として取適法違反が発覚した場合、すぐさま是正措置を行うことが社名公表を避け、信用失墜を最小限に抑えるための重要なポイントです。
自主的な是正措置と点検
公正取引委員会や中小企業庁による指導や勧告が行われる前に、自ら違反を発見し是正することが推奨されます。
過去の勧告事例においても、業界団体を通じた「自主点検」の実施や、経営トップの陣頭指揮による改善が求められています。
未払い代金・遅延利息の支払い
違反が発覚した際は、速やかに未払い代金の支払いや不当に減じた額の返還を行ってください。
改正法では、「代金を減額した場合」についても年率14.6%の遅延利息の取適法対象となります。
公表リスクの回避
重度な違反に対して公正取引委員会が「勧告」を行った場合、違反した事業者名や違反内容が公表されます。
迅速かつ誠実な是正は、この公表リスクを抑え、企業の信頼回復を図る上で不可欠です。
中小受託事業者(受注側)の対応
一方で、受注側として不当な扱い(代金の未払い、不当な減額、価格交渉の拒否など)を受けている場合、法律で保護された申告方法を活用することが可能です。
行政機関への申告
不当な扱い(代金の未払い、不当な減額、価格交渉の拒否など)を受けている場合、公正取引委員会や中小企業庁に相談・申告が可能です。
公正取引委員会の相談窓口:フリーダイヤル 0120-060-110(取適法に関する相談窓口)
「報復措置の禁止」による保護
中小受託事業者が違反事実を知らせたことを理由に、委託事業者が取引停止や数量削減などの不利益な取り扱いをすることは、法律で厳格に禁止されています(法第5条第1項第7号)。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第五条)」
取適法では、これまでの公正取引委員会や中小企業庁に加え、「事業所管省庁の主務大臣」も報復措置の禁止の対象となる通報先(申告先)として追加されました。
物流分野であれば国土交通省など、より現場に近い省庁へも安心して相談できる体制が整っています。
2026年改正で新たに取適法対象となる企業の確認方法
取適法の違反は、担当者個人の注意だけでは限界があります。
違反を未然に防ぐには、チェック機能を組み込んだ組織的な仕組みづくりが不可欠です。
以下では、実務で即座に導入できる具体的な体制整備の方法を解説します。
従業員数を正しくカウントする
2026年改正で導入された従業員数基準は、資本金が小さくても従業員数が多い企業を取適法の対象とするための重要な改正です。
自社が対象かどうかを正確に判断するため、従業員数のカウント方法を正しく理解する必要があります。
「常時使用する従業員数」の考え方
取適法では、委託事業者・中小受託事業者の該当性を判断する基準の一つとして「常時使用する従業員数」が用いられます。
この従業員数には、「常時使用する従業員数」には、正社員だけでなく、期間の定めのない契約で継続的に働くパート・アルバイトも含まれます。
一方で、派遣社員は派遣元(雇用主)の従業員としてカウントされるため、派遣先企業の従業員数には含まれません。
※この考え方は、従業員数基準を導入した取適法の制度趣旨および政府・公正取引委員会による公式解説資料に基づく実務上の整理です。
取引先の従業員数が不明な場合の対応
実務上、「相手方が中小受託事業者に該当するかどうか」を正確に把握できない場合も少なくありません。
このような場合には、すべての取引先を取適法の対象として扱い、取適法に準拠した取引を行うことが、現在のコンプライアンス上のスタンダードとされています。
これは、取適法が取引の適正化を目的とする強行法規であり、該当性の誤判断による違反リスクを回避するための実務対応です。
【物流業界の企業向け】特定運送委託に該当するか確認する
物流業界に関わる企業は、2026年改正で新たに対象となった「特定運送委託」が自社の取引に該当するか確認する必要があります。
荷主企業による不当な待機時間の強要や、附帯業務の押し付けが厳しく規制されることになりました。
特定運送委託とは
取適法では、新たに「特定運送委託」が対象取引として明確化されています。
特定運送委託とは、貨物自動車運送事業者(トラック会社など)に対して、物品の運送を委託する取引を指します。
この類型は、物流業界における不公平な取引慣行の是正を目的として、2026年改正により取適法の適用対象に明示的に含まれました。
参照:e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第二条、第五条)」
物流業界で違反になりやすい2つの行為
特定運送委託に関しては、一般の委託取引とは異なる固有の規制が存在します。
とくに待機時間や附帯業務に関する取り扱いは、取適法違反となりやすいため、荷主企業は以下のポイントを必ず押さえておく必要があります。
待機時間(荷待ち時間)の取り扱い
荷主側の都合により発生する待機時間については、あらかじめ合意した時間を超える場合、追加の対価(料金)を支払う必要があります。
無償で長時間待機させる行為は、取適法の趣旨に反する行為として問題となるおそれがあります。
附帯業務の書面化と対価の支払い
積込み・荷下ろし・棚入れなどの附帯業務を運送事業者に代行させる場合には、業務内容を書面又は電磁的記録で明示し、その業務に見合った対価を支払う必要があります。
これらを無償で行わせることは、不当な経済上の利益の提供要請として問題となる可能性があります。
取適法の違反や罰則に関するよくある質問
取適法の罰則に関して、企業の担当者からよく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
現場で判断に迷う具体的なケースを取り上げていますので、実務対応の参考にしてください。
Q1. 口頭での発注は違反になりますか?
A. はい。違反になり、罰則が科される可能性があります。
たとえ長年の付き合いで信頼関係があっても、書面(または電子データ)の交付は法的義務です。
電話や立ち話で発注した場合は、その直後に必ずメールなどで確定事項を送信してください。
参照:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)Q16」
Q2. 合意があれば減額しても問題ないですか?
A. 基本的にNGです。
「発注後に」代金を減らすことは、たとえ受託側の合意があっても、取適法では「不当な減額」として厳しく禁止されています。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第五条)」
Q3. 罰金50万円は誰が払うのですか?
A. 罰則は会社と担当者の両方に科される可能性があります。
両罰規定により、法人の資産から支払われるだけでなく、違反を主導した担当者個人も刑罰の対象となります。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等防止に関する法律(第十四条、第十五条、第十六条)」
Q4. 個人事業主との取引も対象ですか?
A. 対象になります。
個人事業主(フリーランス)は「従業員数0名の事業者」として扱われるため、委託事業者の要件を満たす企業が発注する場合は、取適法および関連するフリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス法)の対象となります。
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
Q5. 違反を自主申告した場合、処分は軽くなりますか?
A. 軽くなる可能性が非常に高いです。
当局が調査を開始する前に自主的に是正し、申告した場合は罰則が軽減され、指導にとどまる場合が多いです。
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
記事のまとめ:取適法違反のリスクを正しく理解し適切な対応を

2026年1月1日施行の「取適法」は、従業員数基準の導入により、多くの企業が新たに対象となる可能性があります。
違反した場合、罰則として50万円以下の罰金や社名公表といった法的措置だけでなく、取引先からの信用喪失や、年率14.6%の遅延利息など、経営に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。
今すぐ確認すべきポイントは、以下の3点です。
- 自社が委託事業者に該当するか
- 発注書の記載事項が最新の法令に対応しているか
- 振込手数料の負担や支払サイクルが適切か
取適法を守ることは、罰則リスクを回避するだけでなく、取引先との良好な関係を築く上でも欠かせません。
なお、契約書や発注フローの見直しが必要な場合は、専門家への相談をおすすめします。
罰則の規制は従来の下請法でも存在したものであり、取適法で新たに創設されたものではありません。ただ、取適法では従業員基準の設置や運送委託業務への適用などにより、適用範囲が拡大されています。適用範囲が拡大されたことにより、ペナルティを受けるリスクも増えたと言えます。
事業者としては、公正取引委員会から報告を求められ、検査を受け、最終的な指導や勧告につながるリスクも上がったと言えます。どのような場合に、どのような罰則を受けるリスクがあるのか、取適法の要件をしっかりと確認しておきましょう。判断が難しい場合には、弁護士などの専門家にご相談ください。
本記事は、作成時点の法令、ガイドライン、および公的機関の情報に基づいて作成されています。内容の正確性には万全を期しておりますが、法改正や制度変更等により、最新の情報と異なる場合があります。
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