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2026年1月1日に施行された「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」により、これまでの下請法(下請代金支払遅延等防止法)から対象企業の範囲が大幅に拡大しました。
取引の種類が5類型に増え、「従業員数基準」が新たに追加されたことで、これまで対象外だった企業も規制対象となる可能性があります。
「うちは資本金が少ないから関係ない」と考えていた企業でも、従業員数によっては取適法の義務を負うケースが出てきます。
この記事では、取適法の適用基準・対象会社・対象外ケースまで、実務担当者が「自社は該当するのか」を判断できるよう解説します。
2008年に弁護士登録し、大阪市内の法律事務所に勤務したのち、2021年に独立開業しました。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
下請法の目的は、取引関係において立場の弱い下請事業者(受注者)の保護を図るという点にあります。ただ、下請法では資本金のみに着目していましたが、立場の弱さというのは資本金規模のみで決まるものではなく、従来の下請法のもとでは下請事業者の保護が十分に果たされていないという問題がありました。また、時代の流れにより「下請け」という言葉自体が使用されなくなってきたという背景もあります。
今回の「下請法」から「取適法」への法改正では、従業員規模による適用範囲の拡大や、特定運送委託業務への適用など、より幅広く適用可能にすることで、立場の弱い受注者の保護が実現されることになるでしょう。
【目次】
取適法の対象となる「取引の種類」5つ

2026年(令和8年)1月1日に施行された取適法では、従来の下請法で定められていた4つの取引類型に、物流分野の課題に対応するための「特定運送委託」が新たに追加され、合計5類型となりました。
それぞれ簡単に説明していきます。
① 製造委託
事業者が販売用、または請け負った製造のために、物品やその半製品、部品、附属品、原材料などの製造・加工を他社に委託する取引が対象となります。
2026年の改正により、物品の製造に専ら用いる金型、治具(じぐ)、木型などの製造委託も、物品の範囲として明確に対象に含まれるようになり、規制範囲が実質的に拡大されました。
② 修理委託
事業者が他社から請け負った物品の修理をさらに他社へ委託する取引や、自社で使用する物品を自ら修理している場合に、その一部を他社に委託する取引が対象となります。
本来の機能を失った物品に工作を加え、機能を回復させる行為全般が含まれます。
③ 情報成果物作成委託
ソフトウェア、映像、文字・図形といった「情報成果物」の提供や作成を業としている事業者が、その作成を他社に委託する取引が対象となります。
IT・クリエイティブ業界に関連するデジタル成果物が幅広く含まれ、自社で使用するプログラムなどの作成を他社に委託する場合も範囲内です。
④ 役務提供委託
事業者が顧客(他者)に提供するサービス(役務)の全部または一部を他社に委託する取引が対象となります。
ただし、建設業法が適用される「建設工事」は対象外となる点に注意が必要です。
建設業法では、親事業者(発注者)に対して、契約内容を記した書面・電子記録の交付義務、不当に低い請負代金の禁止、工事引渡しの申し出から50日以内の代金支払い、不当なやり直し要求の禁止などの義務が課されており、これにより下請事業者(受注者)は保護されます。建設工事では取適法が適用されないだけであり、受注者側が守られていないというわけではありません。
⑤ 特定運送委託【2026年新設】
2026年の改正で新設された類型であり、事業者が販売・製造・修理、または情報成果物の作成を行う際、その取引の相手方(顧客)に対する物品の運送を他社に委託する取引が対象となります。
物流現場で問題となっている「長時間の荷待ち」や「荷下ろし(荷役作業)」を無償で行わせる行為も、この類型の規制によって厳しくチェックされます。
取引種類別の対象・対象外まとめ表
| 取引類型 | 主な対象範囲 | 実務上の注意点・対象外 |
|---|---|---|
| ① 製造委託 | 物品・部品の生産、加工。販売用だけでなく、自社で使用する物品の製造を他社に委託する場合も含む。 | 2026年改正で、物品の製造に専ら用いる「金型・治具・木型」の製造委託も明確に対象に含まれる。 |
| ② 修理委託 | 物品の修理。顧客から請け負った修理の再委託や、自社設備のメンテナンス(修理)の委託。 | 建設業法が適用される「建設工事」に該当する改修・修理作業は対象外。 |
| ③ 情報成果物作成委託 | ソフトウェア(プログラム)、映像、デザイン、設計図、コンサル報告書の作成。 | 住宅の設計図作成などは対象だが、建設工事そのものの請負は対象外。 |
| ④ 役務提供委託 | 運送、ビルメンテナンス、情報処理、コールセンターなど、他者に提供するサービスの委託。 | 自社で利用するサービス(自社ビルの清掃など)の委託は対象外。また、建設工事は除外される。 |
| ⑤ 特定運送委託 | 販売・製造・修理・作成した物品を、取引の相手方(顧客)へ届けるための運送委託。 | 2026年新設。自社工場から自社物流センターへの移動など、拠点間の運送は原則として対象外。 |
参照:公正取引委員会「取適法の概要」
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
取適法の対象となる「事業者の要件」

取適法が適用されるかどうかは、取引の内容(5類型)に該当するかだけでは決まりません。
加えて、委託事業者(旧:親事業者)と中小受託事業者(旧:下請事業者)の「資本金要件」または「従業員数要件(2026年新設)」のいずれかを満たす必要があります。
つまり、取引の種類と事業者の規模、この2つの要素を組み合わせて判定する仕組みです。
今回の取適法への法改正は、「下請」という言葉を使用していません。公正取引委員会・中小企業庁が公表している「下請法・下請振興法改正法案の概要」という資料では、「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘があり、現に時代の変化に伴って、発注者である大企業の側でも「下請」という用語は使われなくなってきていることから、「下請」の用語を見直すことにしたと記載されています。今回の法改正によって今後は「下請」という言葉自体が使用されなくなっていくものと思われます。
【判定基準①】資本金要件
従来の下請法から引き継がれた基準です。取引の種類によって、対象となる資本金の規模が異なります。
| 対象となる取引の区分 | 発注側(委託事業者) | 受注側(中小受託事業者) |
|---|---|---|
| 物品の製造・修理・特定運送 および政令で定める情報成果物・役務 ※1 |
資本金 3億円超 | 資本金 3億円以下(個人を含む) |
| 資本金 1,000万円超 3億円以下 | 資本金 1,000万円以下(個人を含む) | |
| 情報成果物作成・役務提供 (※1の政令指定分を除く) |
資本金 5,000万円超 | 資本金 5,000万円以下(個人を含む) |
| 資本金 1,001万円以上 5,000万円以下 | 資本金 1,000万円以下(個人を含む) |
※1:政令指定分=プログラムの作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理を指します。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
【判定基準②】従業員数要件【2026年1月1日新設】
2026年の改正により、資本金が基準に満たない企業間であっても、事業者の規模(従業員数)によって法が適用される基準が新たに追加されました。
- 製造委託・修理委託・特定運送委託等: 発注者側の「常時使用する従業員」が 300人超 の場合、受注者側が 300人以下(個人を含む)であれば対象となります。
- 情報成果物作成・役務提供委託(一部を除く): 発注者側の「常時使用する従業員」が 100人超 の場合、受注者側が 100人以下(個人を含む)であれば対象となります。
「常時使用する従業員」の定義と注意点
資本金という概念がない非営利法人なども、この従業員数基準によって対象となる可能性があるため、実務上の影響は小さくありません。
従業員数で判定する際は、以下の点に留意が必要です。
- 定義:単なる正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、1か月を超えて継続使用される日雇い労働者、船員なども含まれます。
- 算定方法:その事業者の賃金台帳の調整対象となる労働者の数によって算出します。
- 判定時期:製造委託などを行った時点の人数で判断されます。
- 優先順位:従業員数要件は、資本金要件が適用されない場合にのみ適用されます。
とくに注意すべきは、「パートやアルバイトも含む」という点です。
正社員だけでは人数が基準以下でも、パートタイマーを含めると基準を超えてしまい、突然、取適法の義務が課されるというケースが実際に起こり得ます。
自社の実態を正確に把握しておくことが重要です。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
なお、従業員数要件については別記事「取適法(旧・下請法)の従業員数要件とは?資本金基準との違いや数え方を解説」でより詳しく解説しています。こちらも合わせてご確認ください。
資本金要件と従業員数要件はどちらも満たす必要がある?
ここまで取適法の対象となる「取引の種類」と「事業者の要件」を解説してきました。
しかし実務上、多くの企業が疑問に感じるのが「資本金と従業員数の両方を満たす必要があるのか?」という点です。
この2つの基準は「どちらか一方を満たせば対象になる」という関係ではありません。
判定の優先順位があり、まず資本金要件で判定し、該当しなければ従業員数要件で判定します。
つまり、資本金基準が適用される取引については、従業員数を確認する必要はないということです。
判定における注意点
2026年の改正で導入された従業員数基準により、これまで取適法の対象外だった企業が新たに対象となるケースが増えています。
自社が該当するかどうかを判断する際に、とくに注意すべきポイントを以下で解説します。
実質的な対象拡大
資本金が基準以下であっても、従業員数が基準(300人超または100人超)を超えている企業が発注者となる場合は、新たに取適法の規制(委託事業者の義務・禁止事項)が課せられることになります。
非営利法人などの扱い
資本金という概念がない一般財団法人や一般社団法人、公益法人などについても、この従業員数基準によって委託事業者に該当するかどうかが判定されます。
個人事業主・フリーランスの保護
受託者(受注側)が個人事業主やフリーランスであっても、資本金基準(1,000万円以下など)または従業員数基準(300人以下など)のいずれかを満たせば、取適法の中小受託事業者として保護の対象となります。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
フリーランス法との優先関係
フリーランス(特定受託事業者)との取引においては、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス法)にも関わってきます。
取適法とフリーランス法の両方の要件を満たす取引については、取適法の規定が優先されつつも、書面交付の免除規定などにおいて、両法律間で齟齬が生じないよう手続上の調整が行われます。
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
自社が対象かどうかの判定フローチャート
実務において、自社の取引が取適法の対象(委託事業者または中小受託事業者)になるかを判断する際は、以下のステップで確認してください。
1. 取引類型を確認する
その取引が「製造」「修理」「情報成果物作成」「役務提供」「特定運送」の5類型のいずれかに該当するかを確認します。
2. 資本金基準をチェックする
発注者と受注者の資本金を確認し、法で定められた区分(3億円、5,000万円、1,000万円の各閾値)に該当するかを判定します。
3. 従業員数基準をチェックする
上記2で対象外となった場合でも、発注者の従業員数が300人超(または100人超)であり、受注者がそれ以下であれば、対象取引となります。
4. 対象外事由(除外要件)の最終チェック
- 建設工事: 建設業法が適用される「建設工事」そのものの委託は、役務提供委託から除外されます。
- 自社用役務: 自社で利用する目的のサービス(例:自社ビルの清掃)の委託は、役務提供委託には該当しません。
- 拠点間運送: 自社の工場から自社の物流センターへの運送など、顧客への配送を伴わない拠点間移動は、特定運送委託の対象外です。
資本金や従業員数が基準値に近い場合は、取引先ごとの「適用判定一覧表」を作成して管理することをおすすめします。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
【重要】取適法の「対象外」となるケース

ここまで、取適法の「対象となる取引」と「対象となる事業者」の要件を解説してきました。
しかし実務上は、一見対象になりそうでも「実は対象外」となるケースがいくつか存在します。
他の法律との重複を避けるため、あるいは「物品」や「役務」の定義に当てはまらないために除外されるケースです。
対象外となる「取引の内容」
以下の取引は、取適法の規律(製造委託など)には該当しません。
建設業法が適用される「建設工事」
建設業法で「建設工事」と定義される作業の再委託は、同法によって別途保護が図られているため、取適法の対象からは除外されます。
自社で利用する「自己用役務(サービス)」の委託
「役務提供委託」の対象は、あくまでも「他者(顧客)に提供するサービス」の外部委託です。
そのため、自社ビルの清掃や自社で使用する福利厚生サービスの委託などは、自ら用いる役務であるため対象外となります。
「物品」に該当しない不動産の売買・管理
取適法における「物品」とは「有体物」を指しますが、土地や建物などの不動産そのものの売買や賃貸管理は、製造・修理という概念に馴染まないため原則として対象外です。
労働者派遣の受け入れ
派遣会社から労働者の派遣を受けることは、自社の指揮命令下で業務を行わせる「自ら業務を行っている」状態とみなされるため、委託取引には該当せず対象外です。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
取適法における派遣社員の取り扱いは別記事「取適法の従業員数に派遣社員は含む?300人・100人基準のカウント方法を完全解説」で詳しく解説していますので、こちらも合わせてご確認ください。
対象外となる「事業者の組み合わせ」
発注側と受注側の双方が、法で定められた「資本金基準」および「従業員数基準」のいずれも満たさない場合、その取引に取適法は適用されません。
対象外となる例(製造委託などの場合)
- 発注者:資本金 1億円 ・ 従業員数 80人
- 受注者:資本金 4,000万円 ・ 従業員数 30人 ※発注者が「資本金3億円超」または「従業員数300人超」のいずれにも満たないため、取適法上の「委託事業者」に該当しません。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
【注意】「対象外」と思われがちだが、実は「対象」となるケース
以下は実務上で誤解されやすいですが、法的な保護の対象となります。
少額取引・短期間の取引
1回の発注金額が極めて小さくても、要件を満たせば法が適用されます。取適法には「取引金額がいくら以下なら対象外」という下限設定はありません。
口頭やメールでの発注
書面での契約書を交わしていなくても、電話やメールで「この内容でお願いします」と伝えた時点で、法律上の「製造委託等」は成立します。
ただし、この瞬間から、委託事業者(発注者)には「直ちに」明示事項を書面で通知する義務が発生します。
「後でまとめて書類を作ろう」と放置していると、その時点で明示義務違反となり、行政指導の対象となるリスクがあります。口頭での発注が日常的に行われている企業は、とくに注意が必要です。
グループ会社間・親子会社間の取引
原則として別法人であれば法が適用されます。議決権の50%超を所有する完全な支配関係にある場合は「実質的に同一会社内」として運用上問題とされないケースもありますが、子会社を介して規制を逃れる「脱法行為」を防ぐための「みなし適用規定」が存在するため注意が必要です。
フリーランス・個人事業主への委託
受注者が法人でなく個人であっても、資本金基準(1,000万円以下など)や従業員基準を満たせば「中小受託事業者」として保護されます。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
【特殊ケース】トンネル会社規制(みなし適用規定)による対象拡大
トンネル会社規制とは事業者が直接、他社に委託すれば「取適法」の対象となる場合に、あえて自社の子会社などを経由して発注し、そこからさらに他社へ再委託させることで法の規制を逃れようとする行為を規制する仕組みです。
この規定により、一定の要件を満たす中間会社(子会社など)は「みなし委託事業者」として、再委託先は「みなし中小受託事業者」として扱われ、取適法が適用されます。
規制が適用される2つの要件
親会社(元の委託主)から発注を受けた中間会社が、以下の2つの要件を同時に満たす場合にこの規制が発動します。
- 支配関係があること:中間会社が、親会社(資本金1,000万円超または従業員100人超の法人)から、役員の任免や業務の執行、あるいは会社の存立そのものについて支配を受けている場合を指します。親会社が議決権の過半数を所有している、常勤役員の過半数が親会社関係者である、など。
- 実質的な再委託であること:中間会社が、親会社から受けた委託内容の全部または相当部分(額または量で50%以上が目安)を、さらに別の事業者へ再委託している場合です。
この状況で、もし「親会社が直接その事業者に発注していたら取適法の対象になっていた」という関係性があれば、中間会社による発注であっても取適法の義務と禁止事項が課せられます。
グループ会社間取引での注意点
グループ内取引における適用判断には、以下の精査が必要です。
- グループ内取引そのものの扱い:親会社と、その親会社が議決権の50%超を所有する子会社との間の取引(または同一親会社を持つ兄弟会社間の取引)は、実質的に同一会社内での取引とみなされるため、従来から運用上は問題とされません。
- 「丸投げ事業者」への注意:多重委託構造において、商流上形式的に関与するだけで実質的な業務を行わない別会社(丸投げ事業者)を介在させることは、受注者が受け取る代金の低下や情報伝達の混乱を招きやすく、「買いたたき」や「不当な給付内容の変更」といった違反行為を誘発するおそれがあるため、とくに注意が必要であるとソースでは警告されています。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
取適法の対象となった場合の「委託事業者の義務」

自社が取適法の「対象」に該当した場合、具体的にどのような義務が課せられるのでしょうか。
委託事業者には、受託取引の公正化と中小受託事業者の利益保護を目的として、以下の4つの義務と11の禁止事項が課せられます。
これらは、たとえ中小受託事業者の了解を得ていたとしても、違反すれば行政指導や勧告の対象となります。
4つの必須義務
委託事業者は、適正な取引環境を整えるために以下の行為を行う義務があります。
1. 発注内容などの明示義務(第四条)
製造委託などをした場合は、直ちに取引条件を確定させ、中小受託事業者に対象事項を通知しなければなりません。
- 明示方法は書面の交付、または電子メールやEDIなどの電磁的方法も認められます。
- 給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法など、受注者が内容を正しく理解できる情報の提供が必要です。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第四条)」
2. 書類などの作成・保存義務(第七条)
取引の内容や代金の支払状況を記載した書類(7条書類)を作成し、2年間保存する義務が対象となります。
これはトラブルを未然に防止し、行政機関の検査の迅速さを確保するためです。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第七条)」
3. 支払期日を定める義務(第三条)
代金の支払期日は、給付を受領した日(役務提供の場合は役務提供が終了した日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定める義務が対象となります。
委託事業者が検査を行うかどうかに関わらず、この期間を超えてはなりません。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第三条)」
4. 遅延利息の支払義務(第六条)
万が一、支払期日までに代金を支払わなかった場合は、受領日から60日を経過した日から支払いを行う日までの期間について、年14.6%の遅延利息を支払う義務が対象となります。
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第六条)」
今回の取適法改正でのポイントとしては、遅延利息の対象に代金減額も含まれるようになったという点が挙げられます。中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに代金を減額した場合、委託事業者は、減額した金額に対する遅延利息も支払わなければならなくなりました(6条2項)。また、こうした不当な減額があった場合には、公正取引委員会から委託事業者に対して、減額分と遅延利息を支払うように勧告してもらうことも可能になりました(10条)。
取適法の4つの義務について、別記事「取適法の4つの義務とは?違反リスクと実務対応を完全解説」で詳しく解説していますので、こちらも合わせてご確認ください。
11の禁止行為
これらの行為は、受注者の同意があっても違反となり、行政指導や勧告の対象となります。
| 禁止行為 | 内容の詳細と注意点 |
|---|---|
| ① 受領拒否 | 受注側に責任がないのに注文品の受け取りを拒むこと(発注取消や納期延期を含む)。 |
| ② 支払遅延 | 定めた支払期日までに代金を完済しないこと。【2026年改正】手形の交付自体が禁止。電子記録債権なども60日以内の現金化不可能なものは禁止。 |
| ③ 代金減額 | 発注後に、受注側の責任なく代金を差し引くこと。振込手数料の差し引きも不当な減額に該当します。 |
| ④ 返品 | 受領後に、受注側の責任なく物品を引き取らせること。 |
| ⑤ 買いたたき | 通常支払われる対価に比べ、著しく低い代金を不当に定めること。 |
| ⑥ 購入・利用強制 | 正当な理由なく、自社指定の物品やサービスを強制的に購入・利用させること。 |
| ⑦ 報復措置 | 受注側が公取委などに違反事実を知らせたことを理由に、取引削減などの不利益を与えること。 |
| ⑧ 早期決済の禁止 | 有償支給した原材料の代金を、その材料を用いた製品の代金支払期日より前に支払わせること。 |
| ⑨ 不当利益要請 | 自社の利益のために、協賛金や従業員の派遣などの経済上の利益を提供させること。 |
| ⑩ 不当な給付内容変更等 | 費用負担なしに注文内容を変更したり、受領後にやり直しをさせたりすること。 |
| ⑪ 協議拒絶の禁止 | 【2026年新設】コスト上昇時の協議求めに対し、無視したり必要な説明なしに一方的に据え置くこと。 |
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第五条)」
上記の委託事業者の禁止行為の①〜⑩は従来の下請法でも同様です。取適法において、⑪協議拒絶の禁止が新設されました。
これは、物価高騰によるコスト上昇が続いていることを背景に、委託事業者が価格交渉に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止するものです。
中小受託事業者(受注者)にとっては、心強い規律になるものと思われます。
【業種別】取適法の対象となるケース・ならないケース

前述のとおり、取適法の対象取引は「製造」「修理」「情報成果物作成」「役務提供」「特定運送」の5類型に分類されます。
ここでは、業種ごとにどの類型に該当するか、また他法令との兼ね合いで対象外となるケースについて、具体例を挙げて解説します。
製造業
自社で販売する製品やその部品の製造を委託する場合が主に対象となります。
2026年の改正により、金型などの「型」の製造委託も明確に対象に含まれるようになりました。
| 対象 | 自動車部品や家電製品などの生産・加工委託、物品の製造に専ら用いる金型・治具・木型などの製造委託 |
|---|---|
| 対象外 | 仕様を指定せずに購入する規格品・標準品の購入、自社内での製造、農林水産物の生産(原始的な生産) |
運送業・物流業
2026年に新設された「特定運送委託」により、顧客への配送が新たに規制対象となりました。
また、荷主から請け負った運送を別の業者に再委託するケースも従来通り対象です。
| 対象 | 特定運送委託(販売・製造した物品の顧客向け配送)、荷主から請け負った運送の他社への再委託 |
|---|---|
| 対象外 | 取引相手が特定されていない状態での自社拠点間の運送、無償のサンプル品や連絡文書などの運送 |
IT・システム開発業
ソフトウェアの作成(プログラムの作成)と、システムの運用・保守(情報処理)で類型が異なりますが、どちらも広く対象となります。
| 対象 | ソフトウェア・アプリのプログラム作成委託、設計図面や仕様書の作成委託、情報システムの運用・データ入出力などの情報処理委託 |
|---|---|
| 対象外 | すでに販売されているパッケージソフトのそのままの購入、自社に作成能力がない特殊な知識部分の外部委託(自家用のみの場合) |
デザイン・クリエイティブ業
映像、音声、文字、図形など、知的財産が絡むクリエイティブ制作全般が「情報成果物作成委託」として保護されます。
| 対象 | テレビ番組やCMなどの映像制作委託、WEBサイトや広告ポスターなどのデザイン作成委託、脚本やBGMの作成委託 |
|---|---|
| 対象外 | 純粋に無償で提供される広告宣伝物の作成(自家用でない場合)、放送局内でのディレクターの指示に従うだけの補助作業(役務) |
サービス業
「他者(顧客)に提供するサービス」を外部委託する場合に対象となります。
自社のために利用するサービスは対象外となる点が大きな特徴です。
| 対象 | ビルメンテナンス業者が請け負った清掃や警備の再委託、ソフトウェアメーカーが顧客向けに行うコールセンター業務の委託 |
|---|---|
| 対象外 | 自社ビルの清掃や自社用福利厚生サービスの委託、弁護士・公認会計士等との顧問契約(自己用役務) |
建設業
建設業法が適用される「建設工事」は、重複を避けるため取適法の対象から除外されています。
ただし、資材の製造や設計図の作成など、工事そのものではない取引は対象になります。
| 対象 | 建売住宅などの設計図面や内装設計の作成委託、工事に使用する建設資材の製造委託、販売用資材の運送委託 |
|---|---|
| 対象外 | 建設業法が適用される「建設工事」そのものの再委託、ビル改修作業のうち建設工事に該当するもの |
参照:e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(第二条)」
参照:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法 テキスト」
別記事「取適法の対象取引とは?5種類の取引類型と適用条件をわかりやすく解説」では、5つの取引類型それぞれの定義や判断基準、業種別の具体例、よくある質問まで詳しく解説していますので、こちらも合わせてご確認ください。
取適法の対象判定に関する実務Q&A
解説記事で触れた基本要件(5類型や資本金・従業員数基準)を踏まえ、さらに踏み込んだケーススタディをまとめました。
Q1. 発注者が「一般社団法人」や「NPO法人」の場合、資本金がありませんが対象外ですか?
A. 従業員数基準により、対象となる可能性があります。
2026年1月1日からの取適法では「常時使用する従業員数」が新たな基準として追加されました。
公正取引委員会の公式資料では、資本金基準または従業員数基準のいずれかを満たせば対象になると明記されています。
そのため、従業員が300人超(または一部業種では100人超)の法人であれば、資本金の有無に関わらず委託事業者としての義務が生じる可能性があります。
ただし、非営利法人の扱いについて公式資料で直接例示されているわけではないため、実際の適用については個別の状況に応じた確認をおすすめします。
参照:公正取引委員会「取適法の概要」
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
Q2. 海外の取引先(外資系企業の日本法人など)から発注を受ける場合はどうなりますか?
A. 日本国内に拠点を有する法人が発注する場合、取適法の対象となります。
この判断は資本金の有無だけでなく、従業員数基準によっても行われます。
発注者が外資系企業であっても、その日本法人が国内で事業を行い、従業員数基準を満たす場合は、日本の中小受託事業者への委託に対してこの法律が適用されます。
海外法人(日本に拠点がない)から直接日本の事業者へ発注される場合は、原則として取適法の直接的な適用範囲外となります。
ただし、非営利法人(一般社団法人・NPO法人など)については、従業員数基準を満たせば対象になる可能性がありますが、公式資料では明確に例示されていないため、実態に応じた慎重な判断が必要です。
参照:公正取引委員会「取適法の概要」
参照:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
Q3. 「特定運送委託」で、配送先が「個人消費者(一般ユーザー)」の場合は対象ですか?
A. 特定運送委託自体は対象ですが、配送先が消費者の場合について公式資料では明示されていません。
2026年1月1日から施行された取適法では、公正取引委員会の公式資料において「物品の運送委託(特定運送委託)」が新たに対象取引類型として含まれることが明記されています。
委託事業者(物品販売者など)と運送事業者との関係について規制が適用されます。
ただし、ECサイト運営企業が個人消費者への配送を運送業者へ委託する場合など、配送先が消費者である具体的なケースについては、公式文書で直接例示されていません。
特定運送委託に該当するかどうかの判断については、取引の実態に応じて専門家への相談をおすすめします。
参照:公正取引委員会「取適法の概要」
参照:公正取引委員会「令和8年1月1日から、取適法の対象が特定運送委託まで拡大します。」
Q4. 1つの契約に「製造」と「保守(役務)」が混在している場合、どちらの基準で判定しますか?
A. 公式資料では混在契約の判定ルールは明示されていません。
公正取引委員会の資料では、製造委託等(従業員300人超)と情報成果物・役務提供委託(従業員100人超)で基準が異なることが示されていますが、混合契約の取り扱いについては明文化されていません。
実務上は契約の主たる内容で判断するか、より厳しい基準(低い方の閾値)に合わせることが安全です。判断が難しい場合は専門家への相談をおすすめします。
記事のまとめ:取適法の対象を正しく理解し、適切な対応を

この記事では、2026年1月1日施行の取適法について、対象となる「取引の種類」と「事業者の要件」、資本金基準と従業員数基準の関係、対象外となるケース、および業種別の具体例を解説しました。
従業員数基準の追加や「特定運送委託」の導入により、対象となる企業の範囲が大幅に拡大しています。
自社が対象かどうかを正確に判断し、書面交付義務や禁止行為への対応を早期に整備することが重要です。
判断が難しい場合は、専門家への相談をおすすめします。
取適法(従来の下請法)の目的は、中小受託事業者(下請事業者)の利益を保護することにあります。今回の取適法への改正により、従業員要件が追加され、また、特定運送委託に適用されるようになりました。これにより、取適法の適用範囲は従来の下請法よりも拡大されることになります。
不当減額に対する遅延利息の支払いや、コスト上昇に対する価格協議拒絶の禁止など、中小受託事業者保護のために取適法において新たに定められたものもあります。
取適法の適用がある取引であるのか、適用がある場合にはどのような事項を遵守する必要があるか、契約当事者としては取適法の内容をしっかりと確認しておく必要があると言えます。
2026年に法改正されたばかりで、実務上の課題はまだまだこれからというところです。取適法の適用に関して判断に迷うようなことがあった場合には、ぜひ弁護士などの専門家に相談しましょう。
本記事は、作成時点の法令、ガイドライン、および公的機関の情報に基づいて作成されています。内容の正確性には万全を期しておりますが、法改正や制度変更等により、最新の情報と異なる場合があります。
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