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発注書を作成する際に、金額や納期と同じくらい重要なのが「精算方式」です。
特に、IT系のシステム開発や建築の請負・サービス委託などでは、内容によって最適な精算方式が異なります。
本記事では、「精算方式がどんなものかよく分からない」という方でも迷わず使い分けられるよう、精算方式の基本知識をご紹介します。
2008年に弁護士登録し、大阪市内の法律事務所に勤務したのち、2021年に独立開業しました。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
取適法やフリーランス保護法の適用がある取引の場合、発注者は書面ないしは電磁的方法(電子メールなど)により、取引内容を明示する義務があります。その明示すべき事項の内容として報酬の額ないしは算定方法(精算方式)が含まれています。この算定方法の定め方については、算定根拠が確定すれば、具体的な額が自動的に確定するものである必要があるとされています。したがって、こうした取引において、精算方式を明示せずに発注することは取適法違反、フリーランス保護法違反となりかねません。法令違反のリスクを回避するためにも、本稿の精算方式の内容を押さえておきましょう。
【目次】
精算方式とは?
そもそも「精算」とは、確定していない金額を、実際にかかった費用や作業量に基づいて最後に正しく計算し直すことを指します。
ビジネスの取引では、最初に決めた金額をそのまま払う場合もあれば、終わってみるまで正確な金額が分からない場合もあります。
そのため、あらかじめ「どのような基準で最終的なお支払額を出すか」を合意しておく必要があり、そのルールのことを「精算方式」と呼びます。
まずは全体像を把握するために、主要な方式を確認してみましょう。
【一覧表】発注書で使用する精算方式まとめ
| 精算方式 | 概要 | 予算の確定度 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 定額精算方式 | 事前に決めた固定総額を支払う | 非常に高い | 成果物が明確な制作物、物品購入 |
| 単価精算方式 | 単価に実際の数量を掛けて支払う | 中程度 | 事務作業、イベント運営、運送委託 |
| 精算幅方式(時間幅) | 一定の時間枠内なら固定、超過・不足分を調整する | 高い | ITエンジニアの業務委託、SES契約 |
| 実費精算方式 | 実際にかかったコスト+利益を支払う | 低い | 高度なシステム開発、コンサル |
| インセンティブ方式 | 成果(成功報酬)に応じて加算する | 変動あり | マーケティング代行、営業支援 |
どの精算方式を選ぶか迷った時の大きな基準は、発注時点でゴールや作業量がどれだけ明確に見えているかという点にあります。
例えば、予算を1円も動かしたくない場合は「定額」が安心ですが、その分、途中で計画を変えるのが難しくなります。
逆に、中身を作りながら考えたい場合は「実費」が便利ですが、最終的な支払額が読みづらくなるという側面があります。
それぞれの方式が持つメリットと注意点を理解して、案件ごとに最適な精算方式を選べるようになりましょう。
取適法では、取引に関する書類等の作成・保存義務が定められており、その内容として、代金の額として算定方法を定めた場合には、その後定まった代金の額を記録しなければならないとされています。また、その算定方法に変更があった場合には、変更後の算定方法、その変更後の算定方法により代金の額及び変更した理由を記録しなければならないとされています。取適法やフリーランス保護法の適用のある取引においては、こうした記録保存の義務があることも気に留めておいてください。
知っておきたい代表的な5つの精算方式
ここからは、先述した5つの精算方式について詳しく解説していきます。
物品の売買だけでなく、IT開発や建築、サービス提供といった目に見えない労働を外部に依頼する際にも、これらの知識は不可欠です。
自社のプロジェクトの性質に合わせて、どの方式が最も公平かつ効率的なのか、具体的にイメージしながら読み進めてみてください。
発注書が契約の成立を証明する書面を兼ねる場合、契約類型によっては発注書が課税文書となり、印紙を貼付する必要があります。課税文書については、記載金額に応じて印紙税の額も変わります(印紙税額の計算方法は国税庁の通達で示されています)。精算方式をどのように定めるかによって印紙税額にも影響がありますので、ご注意ください。なお、発注書等を電磁的記録で作成する場合には印紙税は課税されません。
定額精算方式(固定金額方式)
| 概要 | 発注の段階で「この仕事全部で◯◯円」と総額を確定させて契約する方式。 |
|---|---|
| メリット | 発注側は予算管理がしやすく、支払額が変動しない安心感がある。 |
| 注意点 | 途中で仕様変更や追加作業が発生すると、再見積もりや金額修正の調整が大変。 |
| 適したケース | 物品の購入、チラシやWebサイトのデザイン、要件の固まったシステム改修など。 |
定額精算方式は、ビジネスにおいて最も広く利用されている方式で、発注時点で「何を・いつまでに・いくらで」というゴールが明確な場合に適しています。
例えば、オフィスの備品購入や、ページ数が決まっているパンフレットの制作などがこれに当たります。
一方で、ITシステム開発や建築工事のように期間が長いプロジェクトでは注意が必要です。
作業の途中で「やっぱりこの機能も追加してほしい」といった要望が出ると、当初の定額の範囲を超えるため、中小受託事業者との間で追加費用の交渉が必要になります。
単価精算方式
| 概要 | 「1時間あたり◯円」や「1件あたり◯円」という単価を決め、実績の数量で計算する方式。 |
|---|---|
| メリット | 「やった分だけ払う」ため納得感があり、少量の発注でも無駄が発生しにくい。 |
| 注意点 | 作業量が増えすぎると、最終的な請求額が当初の想定(概算)を超えるリスクがある。 |
| 適したケース | データ入力、イベントスタッフ、リサーチ業務、特定運送委託による配送業務など。 |
単価精算方式は、作業の質は一定ですが、その量が事前に読めない場合に非常に有効です。
例えば、配送を外部に依頼する特定運送委託などのケースでは、「1配送につき◯円」と決めておくことで、物量の増減に柔軟に対応できます。
事務作業の代行を依頼する場合も、Word(ワード)で作成する文書の数や、作業時間に単価を掛けることで公平な精算が可能です。
ただし、発注側としては「無限に予算が膨らむ」のを防ぐため、発注書に「最大◯時間まで」や「総額の上限は◯◯円とする」といった上限を設けると良いでしょう。
精算幅方式(時間幅)
| 概要 | 月額報酬を固定しつつ、稼働時間が一定の範囲(精算幅)を外れた場合のみ増減調整する方式。 |
|---|---|
| メリット | 範囲内であれば支払額が変わらないため、予算の見通しが立てやすく、毎月の計算の手間が省ける。 |
| 注意点 | 下限と上限の設定や、超過・控除単価の計算ルールを誤るとトラブルになりやすい。 |
| 適したケース | SES(システムエンジニアリングサービス)契約、ITエンジニアの業務委託、常駐サポートなど。 |
精算幅方式は、IT業界のエンジニア派遣などで非常によく使われる方式です。多少の稼働の増減はあっても、基本的には月額を固定したいというニーズに適しているでしょう。
たとえば「月間140〜180時間までは月額80万円」と決めた場合、実際の稼働が150時間でも170時間でも、支払う金額は80万円のままです。
もしここで140時間を下回れば「控除精算(マイナス精算)」、180時間を超えれば「超過精算(プラス精算)」として、別途決めた単価で調整を行います。
この超過・控除単価の決め方にはいくつか種類がありますが、実務でよく使われるのが「上下割(じょうげわり)」と「中間割(中間時間割)」と呼ばれる計算方法です。
- 上下割: 超過単価は「月額報酬 ÷ 上限時間」、控除単価は「月額報酬 ÷ 下限時間」で計算する方式。
- 中間割(中間時間割): 超過単価・控除単価ともに「月額報酬 ÷ 精算幅の中間時間」で計算する方式。
上記の「月額80万円/精算幅140〜180時間」を例にすると、上下割の場合は超過単価が【80万円 ÷ 180時間 = 約4,444円/時】、控除単価が【80万円 ÷ 140時間 = 約5,714円/時】となります。
一方、中間割の場合は、140時間と180時間の中間である160時間を使って計算するため、超過・控除ともに【80万円 ÷ 160時間 = 5,000円/時】となります。
なお、精算単価をどのように計算するかや、割り算をした際に「100円未満は四捨五入する」「10円未満は切り捨てる」といった端数の処理についても、双方であらかじめ協議して合意しておくことをお勧めします。
このようにルールを明確にしておくことで、発注側と中小受託事業者の双方が、毎月の細かい端数計算や認識のズレに煩わされることなく、安定してプロジェクトを進められるのが大きな特徴です。
実費精算方式(タイム&マテリアル)
| 概要 | 実際にかかった人件費や材料費(コスト)に、一定の利益を乗せて精算する方式。 |
|---|---|
| メリット | 要件が固まっていない初期段階でも着手でき、プロジェクトの変化に柔軟に対応できる。 |
| 注意点 | 中小受託事業者のコスト意識が低くなると総額が膨れ上がりやすいため、密な進捗管理が必要。 |
| 適したケース | 研究開発、R&D、難易度の高いシステム開発、専門的なコンサルティングなど。 |
実費精算方式は、プロジェクトのゴールや手法が途中で変わる可能性がある、不確実性の高い案件に向いています。
専門性の高いITコンサルティングや、最新技術を用いた研究開発などが代表例です。
この精算方式では、中小受託事業者が費やした工数や経費の透明性が重要視されます。
発注側からすると最終的な支払額が予測しにくいというデメリットがあるため、定期的なレポート提出を求め、コストの進捗を常にモニタリングする必要があります。
信頼関係が構築されているパートナー企業との契約であれば、最も柔軟に動ける方式といえるでしょう。
【補足】インセンティブ方式(成功報酬型)
| 概要 | 目標達成度合いに応じて、基本報酬とは別に報酬額を加算(あるいは減算)する方式。 |
|---|---|
| メリット | 中小受託事業者のモチベーションを強力に引き出し、高い成果が期待できる。 |
| 注意点 | 成功の定義が曖昧だとトラブルに繋がる。評価基準の客観性が不可欠。 |
| 適したケース | Webマーケティングの広告運用代行、営業支援、成果報酬型求人など。 |
インセンティブ方式は、あらかじめ設定したKPI(重要業績評価指標)の達成度合いに応じて、報酬額を決定する方式です。
日本ではまだ一般的ではありませんが、広告運用代行などの分野で導入されることがあります。
中小受託事業者のやる気を高める効果がありますが、何をもって成果とするかの定義が非常に難しいため、まずは定額・単価・実費のいずれかをベースにし、インセンティブは補足的なルールとして検討するのが無難でしょう。
個別の契約の内容に応じて精算方式を使い分けていくということはとても良いことだと思います。当事者間で協議して最適なものをご選択ください。取適法、フリーランス保護法との関係では、当事者間で協議して決まった精算方式について、しっかりと相手に明示して記録を残すということが重要です。
記事のまとめ:自社とパートナー企業に最適な精算方式を選びましょう

最適な精算方式を選ぶことは、自社の予算を守るだけでなく、中小受託事業者との健全な取引関係を築くためにも不可欠です。
- 作業範囲が明確なら「定額」
- 量で測るなら「単価」
- 月単位で安定させたいなら「精算幅(時間幅)」
- 不確実性が高いなら「実費」
といったように、案件の性質を見極めることがポイントです。
自社内で発注書をExcel(エクセル)などでデータ管理する際も、あらかじめ方式を明記しておくとスムーズでしょう。
まずは基本となるこれらの方式をしっかり使い分けることから始めてみてください。
そして、どのような精算方式を選んだとしても、発注書には支払条件や金額の算出根拠を明確に記載することを忘れないようにしましょう。
適正な取引は、正確な書類作成から始まります。本記事が、皆さんの円滑なビジネスの一助となれば幸いです。
取適法やフリーランス保護法の適用がある取引の場合、精算方式は取引内容を示すものとして発注者側から受託者に明示する義務があります。取適法等では、「算定根拠が確定すれば具体的な額が自動的に確定するものである」程度にまで特定して明示する必要があるとされています。その後に金額が確定した場合や精算方式を変更した場合にもしっかりと記録を残すことが重要です。
取適法、フリーランス保護法との関係ではこうした明示、記録の義務さえ遵守していれば、どの精算方式を用いるのかは自由です。受託事業者との間で協議し、契約に応じて最適なものを選択いただければと思います。
本記事は、作成時点の法令、ガイドライン、および公的機関の情報に基づいて作成されています。内容の正確性には万全を期しておりますが、法改正や制度変更等により、最新の情報と異なる場合があります。
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