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2026年1月1日に「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」が施行され、従来の下請法と内容が大幅に変わったことから、
「取適法でも自社の取引が対象になるのかわからない」
「ITやサービス業、建設などの協力会社への発注も関係あるの?」
といった不安を感じている担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、2つのステップに分けた「取適法フローチャート」を用いて、取適法の対象かどうか、次にとるべきアクションは何か、といったところまでわかりやすく解説しています。
取適法の基礎知識もわかる記事となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
2008年に弁護士登録し、大阪市内の法律事務所に勤務したのち、2021年に独立開業しました。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
2026年から施行された取適法と、従来の下請法の大きな相違点は、①特定運送業態が適用対象になったことと、②資本金要件に加えて従業員要件が加わったことの2点が挙げられます。この2点により受託事業者(下請け事業者)がより保護されやすくなったという点をまずはしっかりと念頭に置いていただくと理解しやすくなるかと思います。
【目次】
①そもそも取適法の対象かどうかを確認
取適法は、すべての取引に適用されるわけではありません。
「何を委託しているか」という取引の内容によって、法律の対象かどうかが決まります。さらに、物理的な製品の製造だけでなく、
- Webサイトの制作
- ソフトウェア開発
- 貨物の運送
- ビルメンテナンス など
といった、さまざまなサービス提供まで幅広くカバーされているのが取適法です。
以下のフローチャートで、自社の取引が法律の守備範囲に入っているかを確認してください。
取引内容(5類型)の判定フローチャート

取適法(旧・下請法)の対象となる5つの取引類型
取適法では、対象となる取引を大きく以下の5つに分類しています。
| 製造委託 | 物品の製造や加工を外注すること(部品、衣服、食品など)。 |
|---|---|
| 修理委託 | 物品の修理を外注すること(工作機械、自動車など)。 |
| 情報成果物作成委託 | ソフトウェア、Webコンテンツ、デザイン、番組制作などを外注すること。 |
| 役務提供委託 | 運送(特定運送委託を除く)、倉庫保管、情報処理、ビルメンテナンスなどを外注すること。 |
| 特定運送委託 (2026年新設) | 荷主や運送事業者から、別の運送事業者へ貨物運送を外注すること。 |
IT業界のシステム開発や、Web業界へのHPデザイン制作依頼などは「情報成果物作成委託」に該当します。
また、協力会社へのサービス外注は「役務提供委託」として扱われるため、物理的なモノのやり取りがなくても対象となる点に注意が必要です。
製造委託について、製造に用いる木型や治具など、従来の下請法では製造の対象ではなかったものが今回の取適法には追加されており、この点で適用範囲が広がったと言えます。また、情報成果物委託と役務提供委託では下記の資本金要件、従業員要件で違いがあります。これらの点から、従来から継続している取引関係についても、改めて取適法のどの要件に該当するのか、しないのかについて、ご確認いただいたほうが良いと思います。
※取適法の対象については以下の記事でより詳しく解説しております。ぜひあわせてご覧ください。
取適法の対象とは?適用基準・対象会社・対象外を解説【2026年1月施行】
②資本金と従業員数をチェック
取引内容が対象であっても、発注側と受注側の“規模の差”がなければ取適法は適用されません。
これまでは資本金のみが判断基準でしたが、2026年の改正からは従業員数も重要な指標となりました。
資本金が少なくても、従業員が多い企業は発注者(委託事業者)として義務を負う可能性があります。
事業者規模(資本金・従業員数)の判定フローチャート

従業員数の注意点【2026年新基準】
今回の改正で最も大きな変更点が、この従業員数基準の導入です。
以下の表で、自社と先方の関係性をチェックしてみてください。
| 取引の区分 | 発注者(委託事業者)の条件 | 受注者(中小受託事業者)の条件 |
|---|---|---|
| ・物品製造 ・修理 ・情報成果物(一部) ・特定運送委託 |
資本金3億円超 または 従業員300人超 | 資本金3億円以下 または 従業員300人以下 |
| ・情報成果物(一部) ・役務提供 |
資本金5,000万円超 または 従業員100人超 | 資本金5,000万円以下 または 従業員100人以下 |
上記の一覧表の通り、どちらか一方の条件(資本金 または 従業員数)を満たしていれば委託事業者として認定されます。
たとえば、資本金が3,000万円しかなくても、従業員が150人いるIT企業が個人エンジニアや小規模な協力会社にソフト開発を依頼する場合、取適法の対象となります。
従業員要件が加わったことで、取適法の適用の有無を確認するためには取引先の従業員数まで知っておかないといけないのかと不安を覚える方もいらっしゃると思います。ただ、従業員要件は、資本金要件が充足されない場合に補完的に適用されますので、資本金要件から明らかに取適法の適用がある場合には取引先の従業員数を把握する必要は乏しいと言えます。また、公正取引委員会は、相手方の従業員数を確認する義務まではなく、例えば取引の相手方の賃金台帳の閲覧やその写しの取得は必須ではない、との見解を示しています。
※取適法の従業員数については以下の記事でより詳しく解説しております。ぜひあわせてご覧ください。
取適法の従業員数に派遣社員は含む?300人・100人基準のカウント方法を完全解説
取適法で発注者(委託事業者)が守るべき4つの義務をおさらい
フローチャートで発注者(委託事業者)に該当した場合、以下の4つの義務を必ず果たさなければなりません。
これらを怠ると、即座に法違反とみなされる可能性があります。
1.書面の交付義務:4条書面(旧下請法:3条書面)
発注後すぐに、発注内容、代金額、支払期日などを記載した書面を交付しなければなりません。
現在は電磁的記録(メールなど)での交付も認められていますが、内容に漏れがないようExcel(エクセル)などのテンプレートを整備しておくのが一般的です。
2.書類の作成・保存義務
取引が終わった後も、その内容を記録した書類=7条記録(旧下請法:5条書面)を作成し、2年間保存する義務があります。
Word(ワード)やPDFなどのデジタルデータで管理する場合も、すぐに引き出せる状態にしておく必要があります。
3.支払期日の決定義務
代金の支払期日は、受注者から納品(または役務の提供)があった日から数えて、60日以内のできる限り短い期間内に定めなければなりません。
4.遅延利息の支払義務
万が一、支払期日までに代金を支払えなかった場合は、支払期日の翌日から数えて年14.6%の遅延利息を支払う義務があります。
現在の民法の遅延利息は年3%ですので、取適法の年14.6%の遅延利息は利率としてはかなり高いと言えます。発注者に強い制裁を負わせることで、60日ルールを徹底して遵守して取引の健全性を保ってもらいたいというのが、この遅延利息の意味するところと考えられます。なお、代金の支払い遅延の場合のみならず、受託事業者に責任がないのに一方的に減額した場合にも、減額分に対して同様の年14.6%の遅延利息が課されます。これは従来の下請法には定めがなかったですが、取適法で新しく定められたものです。
※取適法の4つの義務については、以下の記事でより詳しく解説しております。ぜひあわせてご覧ください。
取適法で発注者(委託事業者)がやってはいけない11の禁止行為とは
発注者(委託事業者)は取適法で定められた義務を果たすだけでなく、優越的な立場を利用して相手に不利益を与える“禁止行為”にも注意が必要です。
以下に取適法の11の禁止行為についてまとめていますので、自社が該当していないか確認してみましょう。
協議に応じない一方的な代金決定の禁止
原材料費や人件費の高騰、さらには2024年問題に伴う運賃上昇などが起きている昨今。
にもかかわらず、受注側との協議に応じず、従来通りの低い単価を据え置くことは禁止されています。
手形払等の原則禁止
代金の支払いに手形や一括決済方式(ファクタリングなど)を用いることは原則として禁止されました。
これは、中小受託事業者の資金繰りを保護するためのルールです。
代金減額・返品・買いたたき等の禁止事項
そのほかにも、以下のような行為はたとえ合意があっても原則禁止です。
- 代金減額: 発注後に、受注側に責任がないのに代金を差し引くこと。
- 返品: 納品された物に欠陥がないのに返品すること。
- 買いたたき: 通常の対価に比べて著しく低い代金を不当に定めること。
これらの禁止行為は、中小受託事業者を守るだけでなく、双方が気持ちよく取引を行うためにも大切なことばかりです。
お互いの立場を尊重しながら、スムーズな取引を行えるようにしていきましょう。
※取適法の11の禁止行為については、以下の記事の「対象取引に該当した場合の注意点」にてより詳しく解説しております。ぜひあわせてご覧ください。
取適法の対象取引とは?5種類の取引類型と適用条件をわかりやすく解説
取適法に違反した場合のリスクと罰則
「うっかり忘れていた」では済まされないのが法律の厳しいところです。
ここでは、取適法に違反した場合のリスクと罰則について解説していきます。
公正取引委員会による「勧告・指導」
違反の疑いがある場合、公正取引委員会や中小企業庁による立ち入り調査が行われます。
違反が認められれば、是正勧告や指導を受けることになります。
企業名の公表による社会的信用の失墜
先述したような勧告を受けた場合、公正取引委員会のWebサイトなどで企業名と違反内容が公表されます。
公表されると、多くの人や企業に「コンプライアンス意識の低い企業」というレッテルを貼られることになり、既存顧客の離脱や採用への悪影響など、計り知れない損失を招いてしまうでしょう。
最大50万円の罰金(罰則規定)
書面の交付義務違反(4条書面)や、虚偽の報告をした場合には、最高50万円の罰金が科せられる規定があります。
取適法の罰則については、以下の記事でより詳しく解説しております。ぜひあわせてご覧ください。
取適法の罰則とは?違反時の罰金・社名公表のリスクと対処法を解説
記事のまとめ:取適法フローチャートを活用して法律を正しく守りましょう

取適法の施行により、これまでの下請法よりもさらに広い範囲の事業者が対象となりました。
とくに、従業員数による判定の導入や、特定運送委託の新設、そして価格交渉の義務化は、ITや建設、サービス業などあらゆる業界にとって無視できない変更点です。
まずは本記事のフローチャートを活用し、自社が「守るべき立場」なのか「守られる立場」なのかを正しく把握してください。
もし発注側に該当するのであれば、今すぐ契約書や発注フローの見直しを行い、クリーンな取引環境を整えていきましょう。
取適法では、特定運送業務が対象業種として加わり、また、従業員要件が加わりました。これらが加わったことで、従来の下請法よりも適用範囲が大きく広がったと言えます。また、製造委託では製造のための木型や治具が対象として加わるなど、細かな改正点もありますので、新しくできた取適法の適用があるのかどうかをしっかりとご確認いただいたほうが良いと言えます。取適法違反となってしまった場合には公正取引委員会等からの調査や勧告等を受けることになりかねませんので、リスク回避のためにも今一度ご確認ください。
参照:公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック「下請法」は「取適法」へ〜知っておきたい制度改正のポイント〜」
本記事は、作成時点の法令、ガイドライン、および公的機関の情報に基づいて作成されています。内容の正確性には万全を期しておりますが、法改正や制度変更等により、最新の情報と異なる場合があります。
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