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2023年に導入されたインボイス制度ですが、2026年(令和8年)の税制改正により、その経過措置が大幅に見直されました。
納税額が変わるため、免税事業者から課税事業者になった中小受託事業者や、IT・建設業界で協力会社へ発注を行う企業にとって大変重要な局面です。
本記事では、新設された3割特例や控除率のスケジュール、上限額の変更など、実務で押さえるべきポイントを分かりやすく整理します。
【目次】
インボイス経過措置の見直しで個人事業者と法人が注目したいポイント
今回の改正では、小規模な事業者の納税額を低く抑える「特例の延長」と、免税事業者からの仕入れ(外注)に対する「控除ルールの細分化」の2点が大きな柱となっています。
この見直しは、
- 物品の売買
- IT開発の委託
- 特定運送委託を含む物流
- 建設現場の外注 など
といった、形のないサービス発注を主軸とする企業にも大きな影響を与えます。
とくに、個人と法人で適用期間に差がつけられた点は、経営判断を行う上で見逃せないポイントです。
従来のインボイス経過措置は、大きく分けると「2割特例」と「8割控除」の二つです。
端的にいえば、「2割特例」はサービスを提供する売り手側のための軽減措置、「8割控除」はサービス提供を受けて事業展開する買い手側のための軽減措置ということができます。
売り手側が国に納めるべき消費税額について、「2割特例」の適用を受けることで、本来の消費税額の2割に抑えることができます。
買い手側は、売上げの消費税額から仕入れ業者に支払った消費税額を控除しますが、「8割控除」の適用を受けることで、免税事業者等からの仕入れの8割を控除することができます。
今回の経過措置延長により、これら2割特例と8割控除がどのように変更され、また、どのようなケースで適用可能なのかを押さえておきましょう。
2割特例から3割特例への見直し【個人事業者限定】

インボイス登録を機に、免税事業者から課税事業者になった方を対象とした「2割特例」は、当初2026年(令和8年)9月末で終了する予定でした。
しかし、今回の改正により、個人事業主に限定してさらなる負担軽減策が講じられることになりました。
2割特例が終了した後の受け皿として「3割特例」が新設されます。
これにより、急激に消費税の納税額が増えることを防ぎ、中小受託事業者が事業を継続しやすい環境が整えられます。
【改正のポイント】個人事業主のみ「令和9年分」から3割へ移行
新設される3割特例は、以下の内容で実施されます。
| 対象者 | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下などの要件を満たす個人事業者 |
|---|---|
| 適用期間 | 2027年(令和9年)分および2028年(令和10年)分の消費税申告 |
| 特例の内容 | 消費税の納付税額を、売上税額の30%(3割)とすることができる |
| 適用を受けるための手続き | 確定申告書に3割特例の適用を受ける旨を付記すること |
これまでは一律で2割でしたが、段階的に3割へと引き上げることで移行を緩やかにする狙いがあります。
【実務上の注意】法人と個人の適用の差
ここで非常に重要なのが、法人の場合はこの延長措置がないという点です。
法人の2割特例は、2026年(令和8年)9月30日を含む課税期間をもって原則通り終了します(例:12月決算の法人の場合、2026年12月期の申告までは2割特例が適用できますが、翌期からは適用不可となります)。
法人の経営者は、特例が切れた後の納税額をあらかじめシミュレーションしておく必要があります。
IT系の受託開発や建設業など、外注費が多く発生する業種では、特例終了後の負担増が利益を圧迫する可能性があるため、早い段階で簡易課税制度への切り替えなどを検討しておくのが賢明です。
法人の2割特例は、本文の通りに2026年9月30日を含む課税期間をもって終了しますので、簡易課税への切り替えを検討しておいたほうがよいでしょう。
この簡易課税への切り替えについても特例があります。本来は「適用を受けようとする課税期間の初日の前日 」までに簡易課税選択届を税務署に提出しておく必要があります。端的に言えば、当該年度期間中に簡易課税を届け出ても、実際に簡易課税が適用されるのは翌年度からということになります。しかし、経過措置の適用を受けられる場合には、当該年度中の届出により当該年度から簡易課税が利用できるようになります。
控除割合と上限の見直し・スケジュールを解説

免税事業者からの仕入れについて、一定割合を仕入税額控除できる経過措置も、スケジュールがより細かくなりました。
これは、発注側が免税事業者に支払った消費税額のうち、いくらを自社の納税額から差し引けるかというルールです。
当初の予定よりも下落のペースが緩やかになったことで、急激なコスト増を回避しやすくなりました。
とくに、特定のエンジニアや職人など、免税事業者のまま活動を続ける専門家と取引がある企業にとっては、事業計画を見直すための貴重な猶予期間となります。
仕入税額控除の経過措置:新旧比較表
これまで、免税事業者からの仕入れ(外注費など)にかかる控除率は、2026年10月から一気に50%へと引き下げられる予定でした。
しかし、多くの中小受託事業者にとってこの「30%もの下落」は経営上の大きな崖となります。
そこで今回の改正では、この崖をなだらかにするためのクッションとして「70%」という段階が新たに差し込まれました。
以下の表に、改正前後のスケジュールをまとめています。当初の予定に比べて、負担がゆっくりと増えていく仕組みに変わったことがわかります。
| 期間 | 改正前の控除率 | 改正後の控除率 |
|---|---|---|
| 〜2026年9月30日 | 80%控除 | 80%控除(据え置き) |
| 2026年10月1日〜 | 50%控除 | 70%控除(2年間) |
| 2028年10月1日〜 | (終了) | 50%控除(2年間) |
| 2030年10月1日〜 | (終了) | 30%控除(1年間) |
この新スケジュールにより、2030年まで段階的に控除率が引き下げられます。
発注側の立場で見れば、これまでと同じ金額を支払っていても、国に納める消費税が少しずつ増えていくことになります。
自社のキャッシュフローへの影響を正確に把握するためにも、このスケジュールに基づいた中長期的な納税額の試算を行っておきましょう。
仕入税額控除のあり方については、インボイス制度開始当初から、フリーランスの受注を妨げるものになりかねないという懸念がありました。これは、フリーランスの方は免税事業者が多く、免税事業者からの仕入れについて税額免除が受けられないということは、発注者としてはそもそも免税事業者への発注を行わなくなり、免税事業者の受注減少につながってしまう、というものです。
8割控除は、こうした懸念へ対処するためのものという側面もあります。今回の税制改正により7割、5割、3割と段階的に減らされ、また、期間も延長されましたが、免税事業者への発注控えの問題が完全に解消されたわけではなく、今後も議論が続くものと見込まれます。
【重要】控除限度額の大幅引き下げ
2026年(令和8年)10月1日以後に開始する課税期間から、同一の免税事業者等からの課税仕入れ合計額が、年間で1億円を超える場合、その超えた部分については経過措置(7割・5割・3割控除)が適用できなくなります。
以前は10億円という高い上限が設定されていましたが、1億円へと大幅に引き下げられました。
特定の協力会社やフリーランスに対して年間1億円以上の発注を行っている中堅以上の企業や、大規模な建設プロジェクトなどを抱える中小受託事業者は、特に注意が必要です。
特定金属くず特例の創設【特定業種向け】
リサイクル業界や古物営業を営む事業者向けに、実務を簡略化するための新しい特例も用意されました。これが「特定金属くず特例」です。
本来、免税事業者からの買い取りではインボイスが得られないため控除が難しいのですが、金属盗難の防止対策を講じている一定の事業者については、例外が認められることになりました。
帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能に
特定金属くず買受業の届出を行っている事業者が、免税事業者から金属くずを棚卸資産(消耗品を除く)として買い受ける場合、一定の事項(特例の対象となる旨や、相手方の住所・所在地など)を記載した帳簿を保存していれば、インボイスがなくても仕入税額控除を受けることができます。
これにより、現場での本人確認や記録の徹底は求められるものの、税務上の処理での負担が大幅に減ります。
対象となる事業者は、自社が届出を行っているか、また帳簿の記載要件を満たしているかを改めて確認しましょう。
インボイス経過措置の見直しで気を付けたいポイント3選

制度が変わるタイミングは、事務ミスが起きやすい時期でもあります。
とくに、外注する機会の多いITや建築、クリエイティブ業界などでは、以下の3つのポイントをしっかりとチェックしてください。
① 経理システムと消費税設定の確認
控除率が70%や30%と細分化されるため、現在利用している会計ソフトが新しい計算スケジュールに対応しているか確認が必要です。
また、社内で独自のExcel(エクセル)シートを使って納税予測やコスト管理を行っている場合は、計算式を新しい割合に更新しなければなりません。
とくに1億円の上限の判定は、システム改修が必要になるケースもあるため、早めの対応が推奨されます。
② 取引先(免税事業者)との条件見直し
2026年10月に控除率が70%へ下落することは、発注側にとって実質的なコスト増を意味します。
免税事業者のまま継続する協力会社とは、契約書の内容を改めて確認し、価格調整の必要性について協議しましょう。
とくに長期的なプロジェクトを抱える中小受託事業者は、将来の控除率下落を見越した予算組みが不可欠です。
③ 簡易課税制度への移行手続き
2割特例や3割特例が終了した後、納税額を抑えるために「簡易課税制度」を選択したい場合、届出書の提出期限に注意してください。
特例を受けていた事業者が、特例期間の翌期から簡易課税を適用したい場合には、その課税期間の申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば認められるという特例があります。
どちらの計算方法が有利か、比較表を作成して検討してみるのが良いでしょう。
記事のまとめ:延期された猶予期間をうまく活用しましょう

今回の改正は、物価高騰などの社会情勢を受け、中小受託事業者の急激な負担増を和らげるための助け舟といえます。
しかし、2030年には全ての経過措置が終了し、完全なインボイス運用へと移行します。
この延期された猶予期間を、単なる先延ばしにするのではなく、シミュレーションや取引先との対話を通じ、より強固な経営基盤を築くための準備期間として前向きに活用していきましょう。
2023年のインボイス制度開始当初の経過措置は期間が非常に限定的なものでしたが、今回の経過措置の改正によって、期間の延長や割合の段階的な減少が実現され、事業者にとっては消費税の負担が軽減されることになりました。ただ、これでインボイス制度の問題が解消されたわけではなく、今後も制度の在り方も含めた議論がなされ、今後も更なる経過措置の改正があるかもしれません。
まずは今回の経過措置の内容をしっかりと押さえていただき、事業にご活用下さい。
参考:国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」
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この記事を書いた人
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