発注・契約実務

契約書の損害賠償と遅延損害金(遅滞利率)|押さえるべき基本のポイントをわかりやすく解説

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ビジネスで契約書を交わす際、特に注意したいのが「損害賠償」と「遅延損害金(遅滞利率)」の条項です。

物理的な商品の納品遅れだけでなく、ITシステムの開発遅延や建築工事の不備など、各種サービスの発注でも、契約書に関するトラブルのリスクは常に存在します。

万が一の事態が発生した際に会社を守るためにも、契約書にどのような決め事をしておくべきかを理解しておきましょう。

本記事では、損害賠償や遅延損害金の基礎知識とリスク対策のポイントをわかりやすく解説していきます。

弁護士・南 陽輔のコメント:
契約書における損害賠償や遅延損害金の条項は、何かトラブルが生じた場合に備えておくための重要な条項です。何も定めがなければ民法などの一般法によることになりますが、自社にとってより有利な内容を定めておくことで、トラブル発生時の心強い味方となります。視点を変えれば、契約書での定め方によっては、自社が不利益を被るリスクもあるということです。ポイントをしっかりと押さえていただき、契約実務に活かしましょう。

損害賠償条項の役割とトラブル例

契約書における損害賠償条項は、取引相手が約束を守らなかった(債務不履行)場合に、こちら(発注側)が被った損害をどのように補償してもらうかを定めたものです。

あらかじめ責任のルールを明確にしておかなければ、トラブルが起きた際に解決まで長い時間と多大なコストがかかってしまいます。

まずは、具体的にどのようなケースでトラブルが生じやすいのかを確認していきましょう。ぜひ、これまでの契約と照らし合わせながら参考にしてみてください。

納期遅れや欠陥(契約不適合)発生などのトラブル例

取引における代表的なトラブルとして「納期遅れ」と「成果物の欠陥(契約不適合)」が挙げられます。

  • 物品の売買・納品の場合
    注文した部材が期日に届かず、自社の生産ラインがストップしてしまうケース。
  • サービスや業務の委託(IT・建築など)の場合
    協力会社に依頼したシステム開発で重大なバグ(欠陥)が残ったまま納期を過ぎたり、建築・工事で施工不良が発生して手直しが必要になったりするケース。

このような事態が起きると、契約相手の責任(契約不適合責任など)に基づいて損害賠償を請求することができます。

ただし、どこまでの範囲の損害を請求できるかは、契約書や法律の規定によって大きく変わるため、事前に責任の範囲を明確にしておくことが不可欠です。

基本契約と発注書で内容が異なる場合はどうする?

継続的な取引を行う場合、まず全体的な共通ルールを記載した「基本契約書」を交わし、その後に個別の業務ごとに発注書(個別契約)を発行することが一般的です。

しかし、「基本契約書では遅延損害金が10%とあるのに、発注書では5%になっている」といったように内容が食い違うトラブルが発生することがあります。

このような食い違いを防ぐため、基本契約書の中に「基本契約と個別契約の内容が矛盾する場合は、どちらを優先するか(基本契約優先か、個別契約優先か)」という優先順位の条項を明記しておきましょう。

弁護士・南 陽輔のコメント:
実務上、優先関係の条項がない場合や記載が曖昧な場合、後に出された発注書の内容が合意として優先されると判断されるリスクが生じてしまいます。特に、基本契約は自社ひな形で、発注書は相手方様式というケースでは、現場判断で不利な約定が優先されてしまうトラブルになりかねません。無用な紛争を防ぐためにも、基本契約書で優先順位条項を明記することに加え、「基本契約の条件を変更する場合は特約である旨を明確に合意する」といった運用ルールの社内徹底が重要です。

遅滞利率(遅延損害金)の設定方法と法規制

遅滞利率(遅延損害金)の設定方法と法規制

遅滞利率(遅延損害金)とは、金銭の支払いや履行が期限より遅れた場合に、遅れた日数に応じて支払うペナルティ(利息)のことです。

遅滞利率は自由に決めてよい部分もありますが、法律によって上限やルールが定められているため注意が必要です。

法定利率(3%)と約定利率(10%〜14.6%)の違い

遅滞利率には、法律であらかじめ決められている「法定利率」と、当事者同士の合意で決める「約定利率」の2種類があります。

項目 法定利率 約定利率
概要 契約書で利率を特に定めなかった場合に適用される法律上の利率 契約当事者同士で協議して合意の上設定する利率
利率の目安 年3%
※令和11年4月1日以降の法定利率は、未確定(変動の可能性あり)とされています。
一般的な企業間取引では年10%〜14.6%程度
特徴 契約書に記載がなくても自動的に適用される 契約書に明記することで法定利率よりも優先して適用される

契約書で利率を取り決めていない場合は、自動的に法定利率が適用されますが、支払遅延の防止効果を高めるために、多くの企業間取引では約定利率を設定します。

弁護士・南 陽輔のコメント:
約定利率は、文字通りに当事者間の約定によって自由に定めることができます。ただし、あまりにも高い利率で約定してしまうと、公序良俗違反(民法90条等)として無効となるリスクが上がってしまいます。
この点に関して、年14.6%という利率は、後で紹介される取適法のほか、割増賃金への遅延損害金や、税金の延滞への遅延損害金などの様々な法令で採用されている利率です。なお、利息制限法では100万円以上の債権の利率が年15%(遅延損害金については21.9%)が上限とされています。
これらの法令の定めをもとに、約定利率を設定する場合でも、実務上は10~14.6%の範囲で定められることが多いです。

取引相手によって変わる利率の上限

約定利率は当事者間で自由に決められるのが原則ですが、取引相手の立場や法律によって上限が規制されています。

  • 取引相手が中小受託事業者(下請事業者)の場合
    発注者側が代金の支払いを遅延した場合、取適法(中小受託取引適正化法)により年14.6%の遅延利息を支払うことが義務付けられています。
  • 取引相手が消費者の場合
    事業者と消費者との契約では、消費者契約法により遅延損害金の上限が年14.6%と定められており、これを超える部分は無効となります。

自社が発注者・受注者のどちらの立場になるか、また相手がどのような事業者かによって適用される法規制が異なるため、上限ルールを超えないように利率を設定する必要があります。

※取適法に関しては、以下の記事にて詳しく解説しております。ぜひ本記事の内容とあわせてご覧ください。

取適法対応の契約書作成ガイド|条項例・チェックリスト・改定ポイント
取適法の罰則とは?違反時の罰金・社名公表のリスクと対処法を解説
取適法の4つの義務とは?違反リスクと実務対応を完全解説

会社の損害リスクを抑える「責任限定」の考え方

会社の損害リスクを抑える「責任限定」の考え方

「万が一トラブルが起きた場合、予想もしない莫大な損害賠償を請求されたらどうしよう」

このような不安を抱える企業は少なくありません。事例によっては、損害額が跳ね上がるリスクも拭い切れないでしょう。

ここでは、損害リスクから自社を守るための責任限定の考え方について解説します。

賠償範囲の整理

損害には、直接的に発生した「通常損害」と、特別な事情によって生じた「特別損害(逸失利益や二次的な損失など)」があります。

たとえば、協力会社のシステム開発が遅れたことで、自社がクライアントから得られるはずだった売上を失った場合、その失った利益(逸失利益)は特別損害にあたります。

契約書にて「予見可能であったか否かにかかわらず、特別損害や逸失利益については賠償責任を負わない」と明記しておくことで、賠償範囲を直接的な通常損害のみに絞り込み、想定外の巨額請求リスクを防ぐことができます。

賠償額に上限(キャップ)を設ける

賠償範囲を限定するだけでなく、賠償額そのものに天井(キャップ)を設けることも非常に有効なリスク管理方法です。

具体的には「本契約に基づく損害賠償の総額は、委託対価の額(または過去〇ヶ月間に支払われた受託料の合計額)を上限とする」といった条項を記載します。

賠償額に上限を設ける手法は、さまざまなサービス発注において、受注側の過剰なリスク負担を避ける目的で幅広く採用されていますので、覚えておいて損はありません。

立証の手間を省く「損害賠償額の予定」

トラブルが起きた際、実際にいくらの損害が発生したかを金額で証明(立証)するのは簡単ではありません。

「損害賠償額の予定(違約金条項など)」をあらかじめ契約書に書いておけば、実際に損害が発生した際、被害の額を証明することなく決めておいた金額を請求できます。

ただし、あまりに過大な金額を設定すると公序良俗に反して無効となる場合があるため、妥当な金額設定が求められます。設定の際は慎重に判断しましょう。

弁護士・南 陽輔のコメント:
ここで紹介されている「賠償範囲の限定」、「賠償額の上限」、「損害賠償の予定」は、契約書においていずれかのみというものではなく、組み合わせて活用することも可能です。また、相手方の故意、重過失(故意と同程度の過失)による場合にまで免責する必要性はないため、「故意または重過失による場合は除く」などの文言も忘れずに明記するようにしましょう。他には契約書内で賠償保険への加入を義務付ける特約を定める方法も考えられます。損害賠償に関する条項については様々な定め方が考えられますので、契約実態に応じて柔軟に使い分けるようにしてください。

契約書チェックで迷わないための判断基準

実務で契約書をチェックする際、何に注目すればよいか迷ってしまうことも多いでしょう。

ここでは、契約書を見る際にチェックすべきポイントと、弁護士などの専門家に頼るべきタイミングをご紹介します。

自社に不利な条件を見抜くには?

自社にとって不利な契約になっていないか確認する際は、以下のチェックポイントを意識してみてください。

  • 損害賠償の対象範囲が無制限(特別損害や間接損害まで含まれる)になっていないか
  • 自社側だけに一方的な賠償責任が課されるような内容になっていないか
  • 損害賠償額の上限が正しく設定されているか
  • 遅延損害金の利率が法規制(取適法など)に抵触していないか

相手側から提示されたひな形をそのまま鵜呑みにするのは、企業にとって非常に危険です。

双方にとって対等なリスク分担になっているかを、しっかりと確認しましょう。

弁護士へ相談するタイミング

社内でのチェックだけでは不安な場合、弁護士などの法務専門家に相談するタイミングを見極めることも重要です。

基本的には、トラブルが起きてから相談するのではなく、契約締結前の予防として法務アドバイスを受けるのが最も安全です。

  • 契約金額が自社の許容リスクを超える大型案件の場合
  • 自社で用意したひな形が使えず、相手方の複雑な契約書を提示された場合
  • 不具合・欠陥の基準や、成果物の定義が曖昧で揉める懸念がある場合 など

このような状況に置かれた際には、一度、専門家への相談も検討してみましょう。

弁護士・南 陽輔のコメント:
契約トラブルの多くは、万が一の不測の事態が起きるまで「自社に不利な条項」の存在に気付かないことから発生します。しかし、契約書を締結した後では取り返しがつかないことが多いです。こうした事態を避けるためには、契約締結前に、相手から提示されたひな形をそのまま採用せずに、自社がどのような立場に立つのか、履行不能や大幅遅延が発生した際にどのようなリスクを負うのかなどを多角的にシミュレーションすることが大切です。
紛争化してから弁護士へ依頼する費用や時間に比べ、締結前のレビュー(予防法務)にかかるコストは限定的ですので、少しでも懸念があれば早めの専門家相談をお勧めします。

記事のまとめ:損害賠償条項と遅滞利率のポイントを押さえて、リスクを最小限にしましょう

記事のまとめ:損害賠償条項と遅滞利率のポイントを押さえて、リスクを最小限にしましょう

契約書における損害賠償や遅延損害金の条項は、万が一のトラブルが発生した際に自社を守るための重要な防波堤となります。

物理的な商品の納品だけでなく、ITシステムの開発や建築工事といったサービス発注でもその役割は変わりません。

法律で定められたルールや上限を理解し、責任限定条項などを活用してリスクを適切にコントロールしましょう。

判断に迷う場合や不安が残る場合には弁護士などの専門家に相談し、安全で安心な取引を目指してください。

弁護士・南 陽輔のコメント:
契約書の損害賠償や遅滞利率(遅延損害金)の条項は、自社の利益を守りつつ、想定外のリスクを遮断するための大切な「防波堤」です。自社に不利な賠償範囲になっていないか、利率が取適法などの法規制に抵触していないか、責任限定条項や優先順位条項が正しく機能しているかを契約前にしっかりと検証するようにしましょう。
相手方から提示された契約書案を鵜呑みにせず、リスクを多角的にシミュレーションした上で締結に臨みましょう。迷う点や判断に不安がある場合は、早い段階で専門家に相談し、予防法務を実践してください。

参考:法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」
参考:e-Gov 法令検索「民法第415条、第416条」

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この記事を書いた人

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