注意事項
・本記事は公開時点の情報に基づいています。法令・制度変更等により内容が変わる可能性があるため、最新情報は公式サイト等でご確認ください。
・記事内の画像はイメージです。実際の商品・サービスとは異なる場合があります。
近年、多様な働き方が広がる中で、フリーランスや一人親方といった個人事業者と直接契約を結ぶ企業が増えています。
これまでは“企業の雇用する労働者の保護”が中心だった労働安全衛生法ですが、2025年4月から段階的に施行される法改正によって、その保護対象がフリーランスなどにも大幅に拡大されることになりました。
本記事では、発注企業・個人事業者がそれぞれ直面する新たな義務や注意すべきポイント、さらに段階的な改正スケジュールについて解説します。
2008年に弁護士登録し、大阪市内の法律事務所に勤務したのち、2021年に独立開業しました。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
労働安全衛生法は、法令名からもお分かりの通り、雇用主に労働者の安全と健康を確保させ、快適な職場環境を形成させるための法律です。つまり、雇用関係にあることが前提となっているもので、フリーランスや下請けなどのいわゆる外注先に対しては適用されないものでした。今回の労働安全衛生法の改正、施行により、労働者と同じ場所で働く個人事業主等に対しても、注文者に安全のための措置義務を負わせることになりました。
他方で、個人事業主も、安全衛生教育の講習受講などの一定の義務を負うことになります。
【目次】
新・労働安全衛生法でのフリーランスの適用範囲

労働安全衛生法の改正により、これまで法の保護対象から外れていたフリーランスや個人事業者も、一定の条件下で安全対策の対象に含まれることになりました。
とくに、自社の従業員と外部のフリーランスが同じ場所で作業を行うケースでは、発注企業側に新たな安全措置が義務付けられます。
また、物品の製造現場だけでなく、IT系や建築系のシステム開発や施工現場など、協力会社へのサービス発注を行う企業も対象です。
ここでは、フリーランスだけでなく、在宅ワーカーへの影響範囲についても解説していきます。
これまでの実務では、元請業者の下請事業者への安全配慮義務は判例法理によって認められてきました。判例法理では、特別な社会的接触の関係を持つ場合に信義則上の義務として負うものとされていますが、具体的な義務の内容は個々の事案に応じて判断されてきました。
今回の労働安全衛生法の改正により、事業者が義務を怠っていた場合には、民事上の安全配慮義務違反(過失)も認められやすくなると考えられますので、個々の安全配慮義務の内容が明確化されたと見ることができます。
現場作業を伴うフリーランス(建設・製造など)への影響範囲
建設現場や製造ライン、あるいはクライアントのオフィスに出向いてネットワーク構築を行うIT現場など、発注企業の管理下にある場所で作業するフリーランスには大きな影響があります。
これらの現場では、自社の社員と外部の個人事業者が混在して働くため、発注企業はフリーランスに対しても労働者と同等の安全措置を講じなければなりません。
たとえば、危険なエリアへの立入禁止の掲示や、万が一の災害発生時の退避誘導などが義務付けられています。
これは物理的なモノづくりだけでなく、技術提供などのサービス発注を行うすべての現場に共通するルールです。
在宅ワーカー(IT・デザインなど)への影響範囲
一方で、ITエンジニアやデザイナーなど、主に自宅や自前のオフィスで単独作業を行う在宅ワーカーについては、今回の法改正による直接的な影響は限定的です。
なぜなら、今回の改正で企業に強く求められるのは“同じ作業場所で混在して働く場合”の安全確保だからです。
ただし、業務で使用する各種ツールとしてExcel(エクセル)やWord(ワード)などのソフトウェアだけでなく、専用のWebシステムを使用する際、発注側が無茶な納期を設定して過度な心理的・身体的負荷をかけることは、後述する注文者の配慮義務に抵触する恐れがあります。
在宅だからといって完全に無関係とは言えない点に注意が必要です。
企業が直面する安全衛生措置と偽装請負リスクへの対策

フリーランスに対して安全衛生上の配慮や指示を行う義務が生まれた一方で、企業側が注意しなければならないのが、偽装請負とみなされるリスクです。
請負契約や業務委託契約において、発注側が作業の進め方に細かく命令を下すと、実質的な雇用関係があると判定される労働者性の問題が生じます。
法改正に対応しつつ、違法な偽装請負を避けるためには、安全管理のための指示と業務の指揮命令を明確に切り分ける実務対応が必要です。
指示・指導の許容範囲
厚生労働省のガイドラインによると、安全衛生を確保するために不可欠な指示や指導は、偽装請負には該当しないと明記されています。
たとえば、作業現場でのヘルメット着用の徹底や、危険な機械の操作手順に関する注意喚起、事故防止のための立入禁止区域の設定などは、安全衛生上の正当な指示として認められます。
協力会社にシステム開発やWeb運用などのサービスを発注する場合の作業環境でも、このルールは共通です。
業務指示と安全管理を混同しないためには
企業がリスクを回避するためには、安全管理の指示を“業務そのものの指揮命令”に発展させない工夫が必要です。
混同を防ぐためのポイントを以下の表にまとめました。
| 項目 | 安全衛生上の適切な指示 (OKな指示) |
偽装請負となる恐れがある指示 (NGな指示) |
|---|---|---|
| 服装・装備 | 「現場内では安全のためヘルメットと安全靴を着用してください」 | 「当社の社名が入った制服を着て、当社の社員と同じ服装にしてください」 |
| 作業の時間 | 「危険な機械の稼働時間帯である10:00から12:00は立入禁止です」 | 「本日の作業は9:00から18:00とし、休憩は12:00に一斉に取ってください」 |
| 手順・方法 | 「安全装置の稼働を確認してから、マニュアル通りに操作してください」 | 「効率が悪いので、こちらのシステム開発の手順やプログラミング方法に変更してください」 |
このように、指示の目的が「個人の安全を守ること」なのか「業務の進捗や品質を管理すること」なのかを常に区別することが実務上の最大のカギとなります。
偽装請負がなぜダメなのかと言いますと、労働者派遣の脱法行為と評価されるからです。労働者派遣は特定の事業、事業者しか行えませんが、業務委託契約という外形をとることで、事実上、労働者派遣と同様の状態が起こり得ます。このような状態が許されてしまうと、労働者としての補償がなされない、責任の所在が曖昧になるなどの問題が生じてしまうのです。
偽装請負を回避するポイントとしては、「直接の指揮監督を行わない」ということが重要です。今回の労働安全衛生法が定める事業者への措置義務はあくまで安全に関するものであり、労働者への指揮監督を認めるものではありません。この点を意識していただけると、より理解しやすくなると考えます。
労働安全衛生法の段階的な改正スケジュール(2025年〜2027年)
労働安全衛生法の改正は、関係各所の準備期間などを考慮して、2025年から2027年にかけて段階的に施行されています。
企業もフリーランスも、どのタイミングで何が変わるのかを正確に把握し、法的な義務化がスタートする前に社内規定や契約内容の見直しを進める必要があります。
物理的な商品の製造業はもちろん、IT系や建築系のサービス発注を伴う協力会社との取引においても、以下のタイムラインに沿った対応が求められます。
| 施行時期 | 主な改正内容 | 対象となる主な範囲 |
|---|---|---|
| 2025年4月 | 退避や立入禁止等の措置の義務化 | 危険な作業場所で働く者に対する保護 |
| 2025年5月 | 注文者の配慮義務拡大 | 全業種(無理な納期や工期設定の禁止など) |
| 2026年4月 | 元方事業者の措置義務拡大 | 混在作業現場における指導や連絡調整など |
| 2027年1月 | 労災報告の義務化 | 個人事業者等が被災した現場の事業者(労働基準監督署への報告義務) |
| 2027年4月 | 個人事業者(フリーランス)自身の義務化 | フリーランス側(安全教育の受講・法令遵守) |
それでは、各時期に施行される内容について詳しく見ていきましょう。
【2025年5月施行】注文者の配慮義務拡大
2025年5月の法改正施行に伴い、まずスタートしたのが“注文者としての配慮義務の拡大”です。
これまで建設業などに限定されていた配慮義務が、全業種に広がりました。
これにより、Webサイト制作やシステム開発などのサービスを発注する際にも、安全衛生上問題のあるような短すぎる納期や無理な工期を設定することが禁止されます。
発注側は、適切な作業環境を維持できるような取引条件を提示しなければなりません。
【2026年4月施行】元方事業者の措置義務拡大
2026年4月からは、同じ作業場所で自社の労働者とフリーランスを混在させて働かせる“元方事業者に対する措置義務の対象”が拡大されます。
従来は雇用する労働者向けだった安全衛生に関する指導や、作業間の連絡調整といった災害防止措置を、フリーランスなどの個人事業者に対しても講じることが義務付けられます。
【2027年1月施行】労災事故報告の義務化
さらに、万が一フリーランスが業務中に大怪我を負うなどの労災事故が発生した場合、発注企業側にも国への労働災害報告を行うことが義務付けられます。
こちらもあわせて覚えておきましょう。
【2027年4月施行】個人事業者(フリーランス)自身の義務化
法改正の最終段階として、2027年4月からはフリーランスなどの個人事業者自身に対する義務化がスタートします。
具体的には、安全装置や安全カバーが装備されていない機械を使用してはならないという制限や、一定の危険・有害な業務に従事する際の安全衛生教育の受講義務などが新設されます。
発注企業側としては、現場に受け入れる個人事業主がこれらの義務を果たしているかを確認する体制が必要になります。
今回の労働安全衛生法の改正に加え、既に施行されているフリーランス保護法、取適法においても、育児介護休業への配慮や、ハラスメント対策の体制整備などの就業環境の整備義務が定められています。
フリーランス保護法、取適法の適用のある取引においては、労働安全衛生法に加えて、これらの義務も遵守できているか、改めてチェックしてみてください。
【立場別】労働安全衛生法改正に対応するためのチェックリスト

今回改正された安衛法は、発注する企業側だけでなく、受注するフリーランス個人にもそれぞれ異なるアプローチでの対応が求められます。
とくに協力会社や個人へサービス発注を行う機会の多いIT系・建築系の業界では、お互いの役割分担を明確にしておかなければ現場での混乱を招きかねません。
そこで、双方が直近で確認すべき最低限の実務的アクションを、以下の対比チェックリストとして整理しました。
| 立場 | 今すぐ確認・対応すべき重要アクション |
|---|---|
| 発注企業側 | □ 取引条件の再確認(不当な短納期や工期の排除) □ 業務委託契約書等の改定(安全ルールの明文化) □ 作業現場の環境整備(危険エリアの掲示・周知) □ サービス発注時の管理体制整備 |
| フリーランス側 | □ 自身の安全装備の点検(機械の安全装置など) □ 必要な安全衛生教育の受講(2027年義務化への備え) □ 緊急時の報告ルートの確認(発注者側との連絡フロー) |
各項目について、詳しく解説します。
発注企業側
発注企業が取り組むべき主な対策は、契約関係の整備と現場ルールの見直しです。
| 取引条件の再確認 | 中小受託事業者や個人に対して、安全衛生を害するような不当な短納期や無理な工期を強いていないか確認する。 |
|---|---|
| 契約書・基本合意書の改定 | 業務委託契約書等に、安全衛生に関する遵守事項や、事故発生時の連絡フローを明確に規定する。 |
| 作業現場の環境整備 | 自社オフィスや管理区域内にフリーランスを招く際、危険エリアの掲示や避難経路の周知が行われているか点検する。 |
| サービス発注時の配慮 | 物品の配送や現場でのシステム設置などのサービス発注時、相手方の安全を脅かす指示がないか管理体制を整える。 |
これらの対応は、総務や人事だけでなく、実際に外注管理を行う現場の責任者とも連携して進める必要があります。
とくに契約書の改定や社内ルールの浸透には時間がかかるため、2027年4月の完全義務化に遅れないよう組織全体で優先度を上げて着手しましょう。
フリーランス側
フリーランス個人、または一人親方として活動する側が備えるべきポイントです。
| 自身の安全装備の点検 | 業務で使用する機械に安全装置がついているか、防護具が適切に機能しているかを確認する。 |
|---|---|
| 必要な安全衛生教育の受講 | 2027年の義務化に向けて、自分の従事する業務(危険・有害業務)に必要な講習や教育を事前に把握し、受講計画を立てる。 |
| 緊急時の報告ルートの確認 | 発注企業の現場で万が一事故に遭った際、どの担当者へ、どのように連絡を入れるべきか(報告フォーマットや連絡先など)を事前に共有してもらう。 |
「自分の身は自分で守る」という意識がこれまで以上に求められます。
2027年の義務化は少し先に見えるかもしれませんが、必要な安全衛生教育の講習などは時期によって予約が非常に混み合います。
直前で慌てないために、今から情報収集を始めておくのが賢明です。
労働安全衛生法に違反した場合のリスク
不当な短納期などの注文条件への配慮(ガイドライン)には直接的な罰則はないものの、立入禁止措置などの労働安全衛生法に違反した場合はペナルティが科されます。
しかし、「外部の個人事業者だから当社の責任ではない」という考えは、2026年現在の法律下では一切通用しなくなっています。
とくに、協力会社との連携が不可欠なIT・建築などのサービス発注の現場において法律違反が発覚した場合、金銭的な損失だけでなく、その後の事業継続を揺るがす甚大なリスクへと発展します。
法的なペナルティと企業イメージへの影響
もし発注企業が混在作業場所での安全措置義務を怠り、フリーランスに怪我をさせるような労災事故が発生した場合、法律に基づき是正勧告や罰則(罰金など)が科される恐れがあります。
さらに、安全配慮義務違反として被害者から巨額の損害賠償を請求される民事上のリスクも高まります。
また、現代のビジネス環境において“フリーランスの安全を軽視する企業”というレッテルが貼られると、SNSでの拡散やWebニュースによる報道を通じて企業イメージは一気に失墜します。
結果として、新たな取引先を失うだけでなく、優秀な協力会社や中小受託事業者から敬遠され、サービスの発注自体が困難になるという致命的なリスクを抱えることになるので、細心の注意を払いましょう。
これまでの実務では、雇用契約であれば労働者への安全配慮が義務となるが、業務委託であれば安全配慮義務を負わない、ないしはその程度が軽くなるとの考え、つまりは安全配慮義務へのいわば抜け道的な考えから、業務委託契約という形態が選択されている側面がありました。
今回の改正により、業務委託であっても安全への措置義務を負うことが明確化されますので、しっかりとポイントを押さえて、ペナルティを受けないように注意していきましょう。
記事のまとめ:改正された労働安全衛生法を守りながら、健全な取引関係を構築しましょう

今回の労働安全衛生法の改正は、多様化する現代の働き方に合わせた必然的な変化です。
法改正に戸惑う方もいらっしゃるかもしれませんが、フリーランスを単なる“外部の都合の良いリソース”ではなく“同じ現場で働く大切なパートナー”として捉えることで、自然と法改正にも対応できるようになるでしょう。
コンプライアンスを徹底し、安全で安心な労働環境を提供することが、結果として優秀な人材や協力会社から選ばれ続ける企業になるための第一歩となります。
法律を正しく理解し、健全な取引関係の構築を目指しましょう。
労働安全衛生法の改正により、雇用関係の有無にかかわらず、注文者は同じ現場で働くフリーランス等への安全措置義務を負うことになります。これにより、業務委託を安全配慮の抜け道とする手法は通用しなくなり、違反時は民事上の過失も認められやすくなります。ただし、安全上の指示は直接の「指揮監督」を許容するものではなく、偽装請負には注意が必要です。また、フリーランス保護法や取適法による就業環境整備義務も含め、多角的な取引チェックを行うことが重要です。
参考:厚生労働省「個人事業者等の安全衛生対策について」
参考:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて」
参考:厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」を策定しました
本記事は、作成時点の法令、ガイドライン、および公的機関の情報に基づいて作成されています。内容の正確性には万全を期しておりますが、法改正や制度変更等により、最新の情報と異なる場合があります。
また、本コンテンツは一般的な情報の提供を目的としており、法律的、税務的その他の具体的なアドバイスをするものではありません。個別具体的な事案については、必ず弁護士、税理士等の専門家にご相談ください。
本記事の情報を利用して行われた判断やアクションによって生じた損害、およびリンク先情報の正確性等について、当社は一切の責任を負いかねます。なお、本記事の記載内容は予告なしに変更することがあります。
この記事を書いた人
TCNBが運営する、ビジネスパーソンのための情報発信メディアです。皆様の業務効率化、最新トレンド把握、知識向上を徹底的にサポート。「困った」を解決するすぐに役立つノウハウや専門性の高いコラムを提供します。